給付型奨学金、負担重い学生から先行実施へ 自公一致

朝日新聞デジタル 2016年11月17日

返す必要がない給付型奨学金について、自民、公明両党は2017年度から、所得の少ない住民税の非課税世帯で、特に学費負担が重い人に絞って先行導入することで一致した。具体的な対象は今後詰める。18年度から本格実施して支給対象を広げ、国立大か私大か、自宅通学か下宿住まいかなどによって給付額に差をつけることも検討する。
両党は奨学金の成績基準や財源についても財務省などと調整し、今月中にも政府に制度案を提言する。
給付型奨学金は5月、安倍内閣が公表した「1億総活躍プラン」に位置づけられたが、財源確保が難航していた。このため両党は、例えば下宿する私大生や児童養護施設を退所した人など、進学にあたり特に負担の重い人に絞って17年度に先行実施したうえで、18年度から対象を広げる方式が望ましいと判断した。

<養子縁組業者>全国初の強制捜査 営利目的疑いで家宅捜索 千葉県警

千葉日報オンライン 2016年11月18日

特別養子縁組を巡り営利目的で不正に現金を受け取った疑いがあるとして、千葉県警が児童福祉法違反の疑いで、四街道市の養子縁組あっせん業者「赤ちゃんの未来を救う会」(伊勢田裕代表理事)の関係先を家宅捜索していたことが17日、捜査関係者への取材で分かった。県警によると、同様の業者への強制捜査は全国初とみられる。
千葉県は9月、優先的に子どもをあっせんすると持ち掛け、東京都の希望者夫婦から現金計225万円を受け取ったとして救う会に無期限の事業停止命令を出し、救う会はその後解散した。
捜査関係者によると、今月1日、救う会が事務所として使用していたアパートや関係者宅を家宅捜索し、パソコンや書類などを押収した。
県によると、東京都の夫婦は今年6月、神奈川県の20代女性が産んだ男児の引き渡しを受けたが、その後、女性から県に「最終的な同意確認がないのに病院から男児が連れ出された」との連絡があり、男児は7月、女性に帰された。
救う会は県への明細提出を拒否しており、県警は押収した書類などから実態を調べる方針。
児童福祉法では、営利目的で子どもをあっせんすることを禁じており、罰則規定もある。

知事「捜査に協力」
強制捜査について、森田健作知事は17日の定例会見で「(養子有償あっせん容疑は)あってはならない。残念」としたうえで、「捜査が入ったということで、県としても協力させていただこうと思っている」と話した。

赤ちゃんの遺棄が起こらない社会に 慈恵病院「こうのとりのゆりかご」携わった元看護部長

西日本新聞 2016年11月18日

親が育てられない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)。熊本市の慈恵病院で、この取り組みの企画や運営に携わった、同院元看護部長、田尻由貴子さん(66)=同市=がこのほど、「はい。赤ちゃん相談室、田尻です。」を出版した。本では自身の経験のほか、妊娠相談など全国的な妊婦支援の体制づくりを呼び掛け、田尻さんはその相談員育成にも乗り出している。
田尻さんは、慈恵病院の看護師や熊本県菊水町立病院(当時)の総婦長などを経て、2000年から慈恵病院の看護部長に就任。間もなく同院は妊娠相談窓口を開設し、07年5月からは「ゆりかご」の運用を始め、そのころ相談窓口も24時間体制となった。昨年3月に定年退職した田尻さんは現在、生涯学習事業に取り組む一般社団法人スタディライフ熊本(同市)の特別顧問として、妊娠相談を受けたり、学校などで命の大切さを伝える授業を実施したりしている。

誰にも相談できず、追い詰められて電話してくる女性
出版は、「ゆりかご」が必要になった原因を説明することで、赤ちゃんの遺棄が起こらない社会にしたいとの思いで手掛けた。
本では「ゆりかご」設置のいきさつや、預けられた子どものその後などがつづられている。窓口に寄せられた相談のうち、思いがけない妊娠に関する内容では未婚のケースが最多で、若年での妊娠や不倫による妊娠も多いことを紹介。誰にも相談できず、追い詰められて電話してくる女性の現状を伝えている。
「ゆりかご」が子どもの命のセーフティーネットになっていることや、赤ちゃんを育てられない女性と妊娠中から関わることで、里親や特別養子縁組など新しい家庭に命を託せていることも説明している。

「窓口さえあればいいわけではない」
児童虐待で死亡した子どもの中で、最も多いのは生まれて間もない赤ちゃんだ。
厚生労働省が9月に発表した、児童虐待による死亡事例の検証報告では、2014年度に死亡した子ども71人のうち心中以外の虐待死は44人。うち6割超の27人は0歳児で、月齢別でみると0カ月が最多の15人だった。
また、全年齢を対象にした分析では「望まない、計画していない妊娠」が最多の54・5%、次いで妊婦健診未受診(40・9%)が多かった。これは虐待加害者となった親の多くが妊娠期から課題を抱え、医療や福祉とも接点がなかったことを示しており、報告では妊娠期や周産期の相談体制充実が、虐待死防止につながると提言している。
しかし、田尻さんは「窓口さえあればいいわけではない」と指摘する。過去には、慈恵病院が妊婦から「どこに相談したらいいのか」という相談を受け、相談者の居住地にある相談窓口を紹介すると、そこでは「生まれてから来てください」と取り合ってもらえず、再度同院に電話してきたケースもあったという。
妊娠相談窓口の相談員のスキル向上に取り組もうと、田尻さんを含む助産師有志は昨年11月、「妊娠SOS相談対応ガイドブック」を作成した。今年4月にはそのメンバーや医師、元児童相談所職員などを発起人に「全国妊娠SOSネットワーク(全妊ネット)」(事務局・東京)が発足。田尻さんも理事となり、全国に研修に出向いている。今後は政策提言もしていきたいという。
田尻さんは「妊娠の経緯を責めるのではなく、赤ちゃんの生きる権利、育つ権利を尊重し、温かく見守れる環境こそ、『こうのとりのゆりかご』が必要ない社会を実現する」と話している。

【ワードBOX】こうのとりのゆりかご
赤ちゃんの遺棄死を防ぐため、匿名で赤ちゃんを安全な場所に預けられる仕組み。ドイツの事例を参考に、熊本市の慈恵病院が2007年5月から全国で初めて運用を開始。2015年度までに預けられた乳幼児は計125人。24時間体制の妊娠相談窓口には同年度5466件の相談が寄せられた。その数は07年度の10倍超に当たる。