来年度からスタートする返済不要の奨学金は月2万~4万円支給

マネーポストWEB 2017年3月27日

OECD(経済協力開発機構)の『図表で見る教育2015年版』によると、大学や大学院などの高等教育を受けるための個人負担は、OECD加盟国平均が30.3%なのに対して、日本は65.7%。諸外国に比べると、教育費に対する個人負担が重い。
そのため年々増加しているのが奨学金の利用だ。2000年度に約69万人だった日本学生支援機構の奨学金の利用者は、2013年度には約144万人まで増加(文科省HPより)。そのほとんどが、返済義務のある「貸与型」の奨学金で、7割が有利子だ。卒業すると返済が始まるが、滞納も増えており問題となっていた。
そこで2018年度からスタートするのが、返済不要の「給付型」の奨学金だ。進学先や下宿の有無などに応じて月2万~4万円を支給する。親などが住民税非課税の世帯の子供で、1学年2万人が対象。今年の春から高校を通じて、希望者を募る予定だ(児童養護施設出身者など一部は2017年度から先行実施される)。

児童養護施設出身者の大学進学率わずか1割

神戸新聞NEXT 2017年3月26日

文部科学白書(2009年度)によると、両親の収入が低いほど4年制大学への進学率は低下。年収400万円以下の家庭の進学率は、1千万円超の家庭の半分だった。白書は、格差は緩やかに増大していると指摘する。
一方、厚生労働省の13年調査によると、児童養護施設には、全国で約3万人が暮らす。だが、高校卒業後は7割が就職し、大学・短大などの進学率は1割程度。全国の高卒者の就職率は2割弱にすぎず、5割が大学・短大などに進み、大きな開きが生じている。
09年度には中学生に学習塾の費用も支給され始めたが、高校生に制度はない。神戸学院大総合リハビリテーション学部講師の石田賀奈子さん(社会福祉)は「施設での学習は補習が中心で、人員的にも難しい。団塊の世代や大学生らが施設に関わり、将来像を見せることが大切」と指摘。「費用面を含めた学習支援の制度化に加え、施設側が支援に対し、オープンになることも必要だろう」としている。(広畑千春)

お祝いだけど、顔は見せられない…。写真に込めた虐待への怒り

ホウドウキョク 2017年3月26日

ハレの日の写真なのに…
2月、東京都内の児童養護施設に、成人した卒園者の姿があった。
女性が着ている渋めのピンク色の着物。ボランティア団体「イチゴイニシアチブ」代表の市ヶ坪さゆりさんが、自身の成人式に着用したものだ。飾りは、美容師のメンバーがこの日のために作った。
袴を着た男性は、普段は電気工事の仕事をしている。人生初の着物。久しぶりに会った職員に「似合っている」などと声をかけられ、うれしそうな表情をみせた。夢は小説で食べていくことだと言ってはにかんだ。
「ハレの日の写真なのに、この写真には顔が写っていない。この違和感から、今の日本が抱える問題を考えてほしい」と市ヶ坪さんは語る。
着付けや写真撮影には、時間もお金もかかる。レンタルや髪のセットなど20万円ほどが相場とも言われる。児童養護施設では費用の問題や、職員が日々の業務に追われていることなどから、そうした人生の通過儀礼のお祝いになかなか手が回らない実情がある。
市ヶ坪さんたちは、児童養護施設の子どもたちの誕生日や七五三、卒園者の成人のお祝いで記念撮影などを行っている。カメラマンや、美容師、ファッションデザイナーなど、いずれもその道のプロばかり。化粧品やファッションのPRの仕事をしていた市ヶ坪さんの声かけで集まった。
メンバーの私物や寄付で集められた着物、手作りの髪飾り、本格的なメイク道具で、ハレの日の演出を行う。

施設が抱える問題…定員、職員の負担
児童養護施設は戦後、戦争孤児を受け入れるためにつくられた施設が多い。いま児童養護施設に入る子どもは、虐待やネグレクトなどによって家庭で育てることが困難と判断されて、来ているケースがほとんどだ。
厚生労働省によると、児童虐待の相談件数は年々増加し、2015年度に全国約200ヵ所の児童相談所で対応した件数は、約10万件で過去最多となっている。児童虐待の事件報道等によって意識が高まって相談が増えた面もあるが、望まない妊娠や、離婚、一人親家庭の増加などによる経済的な事情から虐待につながるケースも指摘される。
児童養護施設と職員のニーズは増えるものの、対応は追いついていないのが現状だ。職員の負担は重くなる一方で、その負担の重さから職員が定着しにくいとも言われる。延長申請すれば18歳以降も施設にいられる制度があるのに利用する子が少ないのは、施設に入るのを待っている子どもの存在が少なからず影響しているという。
一人暮らしでは、施設にいる時と違って何か問題を抱えても、近くに相談できる大人がいなくなってしまう。本来頼りにできるはずの施設の職員も定着しにくいため、顔見知りがいなくなり、疎遠になってしまいがちなのだという。
「どうせ自分なんて、と自己評価が低い子が多い」とある施設関係者は言う。こうやって負の連鎖が続くケースも少なくない。

虐待をなんとかしたい
虐待事件のニュースを耳にし、「憤りを覚えた」と振り返る市ヶ坪さん。何か支援できることはないかと、ある児童養護施設に電話をかけたのだという。
「最初はケーキを届けたいと言いました。知らないおばさんから祝われても気持ち悪いと思うだろうから、ケーキだけ渡して施設の職員や、仲間たち、心許せる人だけで祝う機会を提供したいと考えたんです」
それを聞いた施設長は「ケーキの支援は、すでに企業などから支援いただいている」と言った上で、子どもたちを祝う方法を一緒に考えてくれたという。
「生活支援や教育支援は他にもあるだろうから、楽しい時間を少しでも提供したい」と、誕生日を迎える女の子にネイルやメイクをすることからスタート。その後、支援先の施設を徐々に増やし、七五三や成人のお祝いと活動を広げていった。
児童養護施設は、様々な事情を抱えている子が多いため、いきなり連絡してきた外部の人間が中に入るのは容易ではない。しかも、プロのヘアメイクやカメラマンなど、多くの人が施設を訪問するという提案は、本来受け入れにくい。しかし、一人ひとりを祝うことで、集団生活でなかなかできていない
“その子だけの支援”ができるということで実現したのだという。

着物は背中で魅せられる
成人のお祝いをするようになったのは、ある施設の職員から「卒園後の様子が心配な子がいる」と言われたことがきっかけなのだそう。成人のお祝いには、施設に来るきっかけづくりという役割があるという。
「写真撮影の後、卒園生と職員が一緒にご飯を食べて、何気なく今困っていることについて話ができたそうです。それをきっかけに、生活保護の申請を一緒にしに行ったそうです。書類って結構大変ですよね」
この日、写真撮影をした施設では、施設を出た後のケアを担当する職員がいて、誕生日に「おめでとう」とメールで送るなど定期的に連絡をとっているという。職員は「気にかけている、相談に乗る職員がいるということを伝えていく。そういう関係性を作れることが大事」と語った。
本人に渡す写真には顔が写っているが、対外的に見せる写真は、顔が写っておらず、場所が特定できないものにすることが多い。
様々な事情を抱えている子、施設出身者というだけで世間から特別な目を向けられるのではないかと感じる子どもがいるからだ。「子どもたちが抱える問題を知ってほしいと思う一方で、子どもたちを守るために、公に見せることが難しいというジレンマが現場にはあります」とある施設の関係者はいう。
「着物は背中で魅せられる。それに気付いたのです。せっかくのハレの日に、きれいな着物を着せてもらって、みんなに祝って貰っているのに、なんでこの子たちの顔を見せないのか。この違和感から考えてほしい」と市ケ坪さんは訴える。

里親委託率、静岡市が全国一 官民協働の取り組み奏功

@S[アットエス] by 静岡新聞SBS 2017年3月25日

社会的養護を必要とする児童のうち里親に委託された児童の割合を示す「里親委託率」について、静岡市は2015年度末の厚生労働省の調査で、46・9%と全国で最も高かったことが分かった。市児童相談所がこのほど、発表した。市里親会、NPO法人市里親家庭支援センターとの協働による先駆的な取り組みが奏功したとしている。
市児相によると、15年度末の社会的養護が必要な市内の児童は130人で、このうち61人が里親のもとで養育されている。里親委託率は全国2番目だった14年度末比で7・7ポイント上昇した。ただ、市児相は「依然として里親数は不足している」とし、19年度末の里親委託率を50%とする目標を掲げている。
里親制度の普及啓発は都道府県や政令市、中核市の一部が設置する児童相談所が主体となるのが一般的。静岡市の場合は市児相がNPOに業務を全面委託する全国でも珍しい手法を採用し、市里親会出身のNPO担当者らが里親制度の広報活動、里親になる人への事前研修、里親相談などに当たっている。
児童相談所は近年、児童虐待などの対応に追われるケースが多いとされる。厚労省調査は児相を設置する69の自治体別に行われ、15年度末の里親委託率は全国平均17・5%、静岡県は26・7%、浜松市は20・9%だった。
静岡市の委託率の高さについて、市児相の担当者は「NPOによるきめ細やかな里親支援のおかげ。官民連携の先進的なモデルが委託率に結び付いた」との見方を示す。