生みの親の同意要件を緩和すべき

BLOGOS 宮崎正  2017年05月08日

特別養子縁組 親権より子供の幸せ
日本財団調査 養親、養子に高い満足感
何らかの理由で生みの親が育てられない子どもに家庭的環境を提供する特別養子縁組。2009年に国連で採択された「子どもの代替養育に関するガイドライン」でも、子どもの健全な発育に相応しい取り組みとして推奨されている。しかし、日本での成立件数は年間500件前後と海外に比べ極めて少ない。法律的に実親との親子関係が消滅し、親権も養父母に移るため実親の同意が得にくいという事情がある。
そんな中、15歳以上の子がいる特別養子縁組家庭を対象に日本財団が行った調査では、養親の95・6%が「子ども(養子)を育ててよかった」、養子の90%が「養父母に育てられてよかった」と回答、新しい“親子関係”に満足している実態が明らかになった。
欧米では子どもを施設に預け、一定期間、面会に来ないなど適切な養護を怠った場合、親権が消失する制度が導入されている。わが国でも、乳児院で暮らす子ども約3000人のうち20%には親の面会が一切ない現実もある。大切なのは子どもの幸せである。親が責任を果たす見込みのないケースに関しては、生みの親の権利制約など、方策が検討されるべきである。それが特別養子縁組の普及にもつながる。
調査は民間団体の協力で昨年末から年明けに15歳以上の養子がいる家庭878世帯を対象にアンケート方式で行われ、養親から294件、養子から211件の回答を得た。これによると、子ども(養子)の96%は「親(養父母)から愛されていると思っている」と答え、真実(実親の存在)告知に関しても、養親の84・5%がこれを行い、養子の83%が「よかった」と受け止めている。
生みの親が養育できなかった理由は「養育拒否・困難」が30・4%、「若年での妊娠」23・5%、「行方不明」17・4%、「両親の離婚」15・4%など。子どもの26%が養子であることで嫌な思いをしたことがあるとしている半面、74%は嫌な思いをしたことがない、と答えている。
養親の年間収入は平均641万円、養育費も平均13・6万円と全国平均より高く、結果、専門学校や短大、大学への進学率も高く、養親が養子の教育に熱心に取り組む姿が数字で示されている。
日本では社会的養護を必要とする子ども約4万5000人のうち85%は乳児院や社会養護施設で暮らす。施設中心の養護の現状や戦前の家父長的な家制度による親権へのこだわりが、実親が養子縁組に消極的な一因と思われ、厚生労働省の「特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会」の資料でも、特別養子縁組を検討すべきと考えられる事案のうち7割近くが実親の同意要件が障壁となっている、と指摘している。
民法817条は「特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない」とする一方、「養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」や「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当である場合」は親の同意を義務付けていない。
しかし、現実に特別養子縁組の審判を申し立てるのは養親であり、実親の同意がなければ、養子縁組成立後の心的負担も大きい。不同意の理由も「自分では育てられないが養子には出したくない」、「何時かは引き取る」といった自分本位の内容が目立つ。昨年の児童福祉法の改正では、養子縁組に対する相談・支援が児童相談所の主要業務に位置付けられた。しかし児童相談所は近年、虐待対応などに追われ、特別養子縁組に関しても、実親とのトラブルを恐れるあまり判断をためらう傾向もみられる。
少子高齢化や1060兆円にも上る国の借金など国を取り巻く環境が厳しさを増す中、今後の社会政策は、当事者にとって意味があり、社会的費用の合理的な活用につながるといった二つの側面を満たさない限り支持は得にくい。
特別養子縁組の普及は子供に健全な養育環境を提供するだけでなく、全国で40万組もの夫婦が子供を求めて不妊治療に取り組み、一方で中絶件数が新生児の20%近くに当たる18万件にも上る現実を前にすると、条件が整えば広く普及し、助かる命が増える可能性も秘める。
公立の乳児院―社会養護施設で18歳まで育った場合、1人当たりに要する費用は人件費も含め約1億円、民間の場合は5000万円とされる中、施設より里親や養子縁組の方が公的負担は少なく、子どもたちが必要な教育を身に付けることで将来の社会貢献も期待でき、余力を子ども対策の強化に活用できる。
調査では、生みの親の病歴や養子縁組に至った背景など「生みの親に関する情報が十分でなかった」とする養親の声も39・4%に上っている。そうした部分の見直しも含め、社会全体が特別養子縁組の強化に取り組む必要がある。(了)

誰もがなる可能性がある「うつ」 子どもの「うつ」サインを見逃すな!

ベネッセ 教育情報サイト 2017年5月15日

うつ病患者が増えている。厚生労働省の調査によると、1996(平成8)年から2008(平成20)年の9年間で、患者数は2.4倍に増加。児童精神医学が専門の猪子香代先生によると、その傾向は子どもも同じだと言う。猪子先生に子どものうつ病の特徴について伺った。
誰でも落ち込んだり憂鬱になったりすることがありますが、愚痴を聞いてもらったり、たっぷり睡眠をとっておいしいものを食べたりすれば、また元気になるもの。ところが、憂うつな気分が続き、いつまでもふさぎ込んで、何事に対してもやる気がなくなることがあります。これが「うつ病」の典型的な症状です。大人がうつ病になると一般的には「悲しい」「つらい」と感じることが多いですが、子どもは「イライラ」することが少なくありません。症状をまとめてみます。

子どものうつ病の行動に現れる症状
落ち着きなく動き回る、何をするのも遅くなる、話さなくなる、やらなければならないこともできない、面倒くさがる、集中できない、次の行動を考えることができない

子どものうつ病の身体的な症状
食欲がない、体重が減った、食べ過ぎてしまう、体重が増えた、眠れない、いつまでも眠っている

ほかにも、楽しい気分になりたくて派手な服装をする、夜遊びするなど行動の変化もあります。これらは、失われつつある自分のエネルギーを保とうとするための行動です。こうした子どもたちの中には、つらい気持ちを抱えている子が少なくありません。
うつ病は、誰でもなる可能性がある病気です。子どもの心が弱いわけでも、保護者の育て方がよくなかったわけでもありません。子どもや自分を責めるのではなく、まず医療機関に相談してほしいと思います。診療で、実は発達障害だったというケースもあるのです。うつ病も発達障害も、治療で改善することが多く、早めに受診することが子どもを救うことになります。

性的少数者の授業 小中学生には時期尚早か?

朝日新聞デジタル 杉山麻里子 2017年5月15日

義務教育から、多様な性について教える必要がある――。児童生徒のころにいじめを受けることが少なくない性的少数者のこんな声を記事で紹介したところ、小中学校の先生たちから「授業で初めてLGBTを取り上げた」というメールが届きました。小中学生に多様な性について教えるのは時期尚早なのでしょうか。寄せられた意見をもとに考えます。

中学校では「まだ早い」
多様な性について教えてほしいという、性的少数者の思いを覆す形で、今年3月に告示された小中学校の次期学習指導要領に、「思春期になると、異性への関心が芽生える」(体育)の記述が残りました。読者から様々な意見が届きました。
神奈川県の地方公務員の女性(53)は数年前、性別に違和感のある高校生が「中学で制服や体育など男女で区別があることがつらかった」と講演会で話すのを聞いたそうです。女性は仕事で訪れた中学校で教員に「LGBTをテーマにしたワークショップを開きたい」と伝えました。でも、「うちにはそういう子はいない」「まだ早い」と反応は冷ややか。「LGBTの理解がなかなか進まないのは、当事者が自分の性に違和感を持ち始める学齢期に、先生たちが関心を示してくれないからではないか」と女性はみています。
性的少数者の当事者の声も届きました。栃木県の高齢者施設で働くトランスジェンダーの女性(53)は中学3年ごろから、出生時の男性という性別に違和感を持ち始め、自己肯定感を持てなかったそうです。「自分自身がそうでないとわかりにくいでしょうが、(先生には)わかろうとする努力はしてほしいし、積極的に勉強してほしいと思います」
一方、「同性の友だちから、好きと告白されたが、恋愛感情はない。どう答えたらいいか」という10代少女のSNSの書き込みを見て、長野県の主婦(52)は思ったそうです。LGBTについて教える先生たちは、多様性を認め合うことと、相手を恋愛対象として受け入れるかどうかは別次元の問題だと理解したうえで、「率直に『今のまま友だちでいたい』と言って構わないんだよ」と言えるだろうか。「先生には理念を説くだけではなく、現実も知ってほしい」といいます。
多様な性について学習指導要領に記載することに否定的な意見もありました。小、中、高校生と3人の子どもがいる静岡県の元看護師(41)は、「思春期になると異性への関心が芽生える」という指導要領に「同性もありうる」と記載され、教師がそう教えるようになったら、子どもにどのような影響が出るのか母親として憂慮している、と書きました。同性から告白されたらどう思うかと子どもたちに尋ねたら、「困るし、気持ち悪い」「受け入れられない」という言葉が返ってきたそうです。「多様性を認めるという言葉のもとに、LGBTを受け入れることが道徳であり、やさしさである。そうでなければ差別やいじめであると教育されるとしたら、子どもたちの言葉は差別発言になるのでしょうか」

いつか生きる力になる
「小学校現場では、思いのある教員が草の根的に、子どもたちに必要な生きる力としてLGBTについて教えています」とメールをくれたのは、神奈川県三浦市立初声小学校の養護教諭、及川比呂子さん(57)です。今年3月、6年生の担任4人とともに、児童約100人に対してLGBTの授業をしました。
きっかけは昨夏。女性に生まれ、男性として生きるトランスジェンダーの人の話を養護教員対象の研修で聞いたことでした。「自分は男の子だと感じていたので、セーラー服や女性用トイレが嫌だった」という言葉に、保健室によく来ていた元教え子のことが頭に浮かんだそうです。修学旅行で同級生男子と一緒にお風呂に入るのが「地獄だった」と話していました。気にかけたものの、当時は性的少数者についての知識も情報もなく、何もできませんでした。
だから、今教えている子どもたちが中学に進学する前にどうしても授業をしておきたいと思った、といいます。中学生では男女で制服が異なり、割り切れなさや悩みを抱える人がいるかもしれないからです。半年かけて指導案や教材を手作りし、道徳の時間に授業を実施しました。
「LGBTって何だろう?」「笑いのネタにしない」。画用紙に描いたイラストや、トランスジェンダーの大学生が自分らしい服で成人式に出たことを伝える新聞記事などを使い、子どもたちに伝えたそうです。
「女の子の体でうまれると『自分は女の子』と思える。男の子の体でうまれると『自分は男の子』と思える。そうではなく、体と心がしっくりこない人もいる。それでいいんだよ、困ったら相談していいんだよ、ということを知っておいてほしい」
子どもたちからは「LGBTって知らなかった。すごくためになった」「男の体の人は自分は男だと思う。女の体の人は自分は女と思う。なんでそうなるのだろうか」といった感想が寄せられ、及川先生は授業の1週間後に6年生に配った「ほけんだより」にこう書きました。
「先生も答えが見つからないです。とても深く授業を受け止めてくれたんだね。一緒に悩んでいこう」
「一緒に行った学習は算数や国語とは違うけれど、きっといつかどこかでみんなの生きる力になるはず、と信じています」
中学校の先生からも授業の報告が届きました。島根県吉賀町立六日市中学で社会を教える山本悦生先生(47)です。社会に排他的な風潮が強まる中、LGBTについて理解することで、人権について考え、多様性を認め合うことができるのではないか。そう考え、昨年10月、3年生のクラス9人に対して社会の「基本的人権の尊重」の学習の中で、初めてLGBTについて扱いました。平等権に関連して、部落差別や女性の労働環境、夫婦別姓などについて3時間かけて取り上げた後、LGBTの授業に1時間をあてました。
授業では、「13人に1人は性的少数者といわれる」などと伝えたうえで、6年前に、当時14歳だった米国人少年がユーチューブに投稿した動画の一部を紹介。少年はバイセクシュアルで、学校でいじめられましたが、「状況はよくなる」と語っていました。結局その後、自ら命を絶ってしまいます。また、同性婚をめぐる世界各国の状況や、東京都渋谷区の同性パートナーシップについて、新聞記事を使って学習しました。
以下は生徒の感想の一部です。
「この少年のように、命を絶つ人が出てくるのはもう嫌です。LGBTの人をきちんと理解し、受け入れることができるようになりたい」
「僕も普段、同性愛者に対する差別的な発言をしていたことに気づきました。学校の先生はLGBTがわがままでないことを理解し、生徒の思いをくみとるべきだと思います」

多様な性 肯定的にみる効果
LGBT支援団体「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」(東京)が2013年に10~30代のLGBT当事者約600人に行った調査では、いじめや暴力を受けたことがある人は68%。LGBTをネタとした冗談やからかいを見聞きした人も84%にのぼりました。
子どもたちに多様な性についての授業をすることで、どのような効果があるのでしょうか。
宝塚大看護学部の日高庸晴教授(社会疫学)は、エイズ予防教育の一環で、奈良県高校人権教育研究会とともに授業の指導案を作成。昨年4月から11月にかけて、同県内の高校13校で、教員が多様な性についての50分間の授業をしました。授業では、性的指向と性自認の違いなどについて解説した後、「男を好きだなんて気持ち悪いという言葉を聞くたびに傷ついて、ますます(バレるのを)恐れるようになった」というHIV陽性者のゲイ男性の手記を先生が読み上げます。そして、どうすれば当事者が傷つかないような社会にできるか、生徒が話し合いました。
授業を受けた生徒に授業の前後で14項目について尋ね、授業の効果を検証しました=グラフ。すべての項目で、性的少数者について否定的な回答をした生徒の4~5割の意識が、授業後は肯定的に変わったことも分かりました。
「普段から子どもに接している先生が教えることの意義は大きい」と、日高教授。授業の指導案や調査結果をまとめた45ページの冊子を、希望する教育関係者に配布することを検討しているといいます。
性的少数者の若者と支援者らでつくるNPO法人ReBit(東京)でも今年3月、中学校の教員向けに、LGBTについて先生が知ることから生徒に教えるまでのプロセスを体系化した教材キットを作り、無料で提供を始めました。当事者の若者らが中学時代に感じていた孤独感などを語るDVDや、中高一貫校で教えるトランスジェンダーの教員(27)が作った指導案も含まれています。
この教員は、学習指導要領にLGBTという言葉がなくても、「道徳の時間の目標」には「人間理解」「他者理解」などと記載されており、道徳の時間などにLGBTの授業をすることは可能だ、と指摘。先生たちには、LGBT「を」学ぶ授業ではなく、LGBT「で」学ぶ授業をめざしてほしい、と語ります。
「子どもたちは将来、変化と多様性に富んだ社会に出ていきます。その時、多様な価値観を受け入れる土壌がなければ、苦労するのは彼ら自身。私たち教員は、子どもたちの中に、人は多様であるという意識を育まなければならないと思います」とこの教員は話します。

鹿児島大学、そして小中高校の授業を通して、多様な性を社会はどう受けとめ、受け入れていけばいいのか、皆さんと考えてきました。鹿児島大学では、性的少数者と社会について学生たちの議論がさらに続いています。授業などでの議論をもとに、また皆さんとこの面で考えたいと思います。(杉山麻里子)

〈LGBT〉 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害を含む体と心の性が一致しない人)の頭文字で、性的少数者の総称として使われることが多いようです。性的少数者には、心の性が男女どちらでもないXジェンダーや、性愛を感じないアセクシュアルなどの人もいます。電通ダイバーシティ・ラボが15年に行った国内の成人約7万人を対象にした調査では、性的少数者に当たる人は全体の7.6%でした。

市民が死刑を判断する時代「情報公開の徹底が必要」裁判員経験者・田口真義さんに聞く

弁護士ドットコム 2017年5月14日

裁判員制度が始まって5月21日で8年。裁判員裁判で死刑判決を受けた被告人はすでに30人に達したが、「市民が裁判員として死刑の判断に直面する時代だから、死刑に関する情報公開の徹底や国民的議論が必要」と訴えるのは、裁判員経験者の交流団体「LJCC(裁判員経験者によるコミュニティ)」の世話人、田口真義さん(41)。そう考える理由を聞いた。(ルポライター・片岡健)

不全な情報で人の生死を決めた裁判員は心が揺れ動く
―田口さんは2014年2月、他の裁判員経験者19人と連名で死刑執行停止を求める法務大臣宛ての要請書を法務省に提出しています。
要請書は、死刑という刑罰が日本に「あるからある」と無批判に受け入れるのではなく、一度立ち止まって死刑の執行を停止したうえで、死刑に関する情報の公開を徹底し、死刑に関する国民的議論を促すように求めたものでした。中でも一番のポイントは、死刑に関する情報公開の徹底を求めていることです。署名してくれた19人の中には、裁判員として死刑判決に関わった人や死刑制度に賛成の人もいますが、この部分は誰もが賛同してくれました。

―死刑に関する情報の公開は現状のままでは不十分だと?
裁判員として死刑判決に関わった人たちと話していると、最初のうちは「きちんと議論して出した結論なので、間違いはない」と言っているのですが、あとから迷いが出てきて、「もしも間違っていたらどうしよう」と心が揺れ動くようになります。実際、控訴審で裁判員裁判の死刑判決が破棄された事件で裁判員を務めた人の中には、「自分の考えが否定された」と捉える人もいますが、「それで良かったのかもしれない」とほっとしていた人もいます。
そんなことになる一因として不全な情報で人の生死を決めていることがあります。死刑判決が出るような事件でも裁判官が死刑について、裁判員に説明するのは「日本の死刑は絞首刑です」「死刑の執行は確定から6カ月以内です」という法律に書いてあることだけなのだそうです。裁判官も死刑に立ち会うわけではないので、それ以上のことは知らないのだと思います。

―では、死刑に関し、具体的にどんな情報を公開すべきだと?
たとえば、死刑確定者の一日の生活のタイムテーブル。死刑確定者は何を食べ、何を考えているのか。執行された際、最後の言葉は何だったのか。制度のことで言えば、なぜ執行が本人に事前に告知されず、当日に告知されるのか。そしてなぜ、執行法が絞首刑なのか。さらに根源的なところでは、なぜ日本に死刑はあるのか。
あとは死刑の順番ですね。再審請求をしている死刑確定者は執行が先送りされると言われますが、そんなことが法律で定められているわけではなく、都市伝説の域を出るものではありません。「死刑のどんな情報を公開すべきと思うか」というのはよく聞かれることですが、そう聞かれると逆に「僕らが死刑について何を知っているのだろうか?」と思います。

ジョニー・デップの抗議運動も死刑情報が事前公開だからこそ
―田口さんたちが2014年2月に先の要請書を提出した後も情報公開などの進展はとくに無いまま、死刑は執行されています。2015年12月には津田寿美年死刑囚(当時63)が死刑執行され、裁判員裁判で出た死刑判決が初めて執行された事例になりました。
「LJCC」にもその事件で裁判員を務めた人がいます。その人は執行の第一報を聞いた時は何をどう受け止めていいかわからず、整理がつかない状態で、そこにマスコミからどんどん取材の電話がきて、余計混乱したそうです。津田さんより前に死刑が確定している人もいる中、なぜ津田さんが執行されたのか、と。できれば執行はして欲しくなかったと言っていました。

―死刑に関する情報公開が進めば、制度の運用なども変わりうるのでしょうか。
先進国の中ではアメリカも死刑存置国ですが、日本と決定的に違うのは、死刑に関する情報が公開され、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をして、やっぱり死刑はあるべきだという結論に行き着いているか否かです。アメリカでは、死刑執行の現場をマスコミも取材できるなど、徹底的に死刑の情報を公開しています。だからこそ、執行法も絞首刑から電気椅子、薬殺へと移り変わっています。日本も死刑の情報公開が徹底されれば、そういうことがあるかもしれません。

―アメリカといえば、先日もある州で死刑執行に使う薬物の使用期限が迫ったために11日間で8人の死刑を執行する計画を発表され、俳優のジョニー・デップらが現地で抗議運動を行いました。
そういうことが起こるのもアメリカが死刑執行の情報を単に公開するだけでなく、事前に公開しているからです。日本では、死刑の執行が発表されるのは執行後ですから、今回のアメリカのような「駆け込み執行」があっても後手に回るしかありません。

死刑に関する議論は一般市民がしないと意味がない
―死刑に関する国民的議論が具体的にどんな形で実現することを期待しているのでしょうか。
死刑に関する議論については、国民の代表である国会議員たちがすでにしているだろうという意見もあります。しかし、裁判員法で国会議員は裁判員をできないことになっていますから、そういう人たちが死刑に関して議論しても机上の空論にしかなりません。裁判員として死刑に関わるかもしれない一般市民が議論しないと意味がありません。
僕が夢想するのは、これまで刑罰や刑事司法に何ら関与していなかった人でもきちんと死刑について議論できる社会です。一般市民が海外に対し、「日本ではこういう議論を重ね、こういう理由で死刑があったほうがいいという結論になったんだ」と胸を張って説明できるならいいのですが、今はそうではない。議論の場所はファミレスでも電車の中でもいいのですが、死刑の執行があった時、「この死刑どう思う?」「絞首刑って残虐じゃないの?」みたいな議論が巷でなされるようになれば、日本の死刑への意識は変わってくると思います。

出産してもシェアハウス、夫婦で社会実験中 ぶっちゃけ大丈夫? プライバシー・将来「事例作るのが大事」

withnews 2017年5月15日

「保育園落ちた日本死ね」が流行語となった日本。「結婚してもシェアハウス、子育てもシェアハウスで」という生き方を提唱し、実際に、シェアハウスで結婚生活を送る「社会実験」を継続中の2人がいます。第1子を出産予定ですが、そのまま住み続ける予定です。家賃は? プライバシーは守れる? トラブルはないの? シェアハウスが解決できることについて話を聞きました。(朝日新聞記者・永田篤史)

「夫以外に頼める人が9人いる」
「社会実験」をしているのは、ともに会社員で、10月に第1子を出産予定の栗山(旧姓茂原)奈央美さん(32)と、結婚後もシェアハウスに住むことを前提に結婚相手をブログで募集した阿部珠恵さん(32)です。
2012年には『シェアハウス わたしたちが他人と住む理由』(辰巳出版)を出版、シェアハウスで結婚生活を送る生き方を提唱し、有言実行しています。
東京都新宿区にある7LDKの一戸建て、名付けて「トーキョーフルハウス」に、夫婦2組、カップル1組を含む11人が住んでいます。家賃はだいたい1人当たり6万円程度だそうです。
「核家族で子どもができたご夫婦よりは不安が少ないのでは、と思います。例えば、子どもが病気になって急遽迎えに行く時も、夫以外に頼める人が9人いますし」と奈央美さん。

個人も行政も、ハードよりソフトを
先日、同じく夫婦でシェアハウスに住み、妻が妊娠中の人たちとは「保育士の資格を持つ友人などに家に来てもらい、費用を折半して両方の子どもの面倒をみてもらう『保育のシェア』をしてはどうか」と話し合って盛り上がったそうです。
奈央美さんは、これから人口が減っていく中で、保育園という「箱物」が増え過ぎても後で無駄になる、という懸念もあるため、個人も行政も、ハードよりソフト面で知恵を絞ることが必要だと考えています。

一人暮らしは家賃が高いし寂しい
奈央美さんと、阿部さんは、元々は同じ会社の同期でした。一人暮らしは家賃が高いし寂しい、ということで奈央美さんの妹を含めて2009年からシェアハウスを開始しました。
掃除は阿部さん、洗濯関連は奈央美さん、などというように家事を分担するととても効率的になることに気づき、当時から「結婚してもシェアハウス、子育てもシェアハウスでやると良いのでは」という話をしていたそうです。
奈央美さんは、友人の友人で、当時自身もシェアハウスに住んでいた栗山和基さん(34)と出会った際、そんな話をしたら、「それ、めっちゃ面白いね。いいと思う」と言われ、付き合う前から「あ、この人と結婚するんだろうな」と思ったとか。

友人夫婦も「吸収合併」
2014年に結婚する際も、ちょっと広めの家に移ってシェアハウス生活を続けることに。
当初、双方の親には反対されましたが、両親顔合わせの時に「うちの子が変なことを言って……」「いえ、うちの子が変なことを言って……」「じゃあ、本人たちが良いと言うなら……」と落着したそうです。
その後、和基さんの友人夫婦が住んでいたシェアハウスが更新のタイミングになった際に、その夫婦も「吸収合併」して、以前より大きめな今のシェアハウスに転居しました。

夜の生活は……
他の住人たちは基本的には友達や友達の友達という関係で、奈央美さんは「全く知らない人と住みたい、というよりは、家族を拡大していく、みたいな感覚で暮らしていきたくて、それですごく助け合っていけるんじゃないか、と思っているんです」と話します。
このような奈央美さんたちの暮らし方を聞きつけた人たちからは続々と「これから結婚するのですが、シェアハウスに住みたくて……」などという相談が舞い込み、今年だけで既に4組の話を聞いたそうです。
その後、ちなみに夜の生活の方は、「今の家は、防音がしっかりしているから問題ないですよ」とのことでした。

ニュータイプ?ブログで彼氏を募集。交際2カ月で6.5畳に同居
一方の阿部さん。今は、ブログを通じて募集した彼氏と6.5畳の部屋で一緒に住んでいます。
以前から「シェアハウスで子育てすると良いと思う」という話を男性にすると、「何かニュータイプを見るような感じ」で引かれていた、という阿部さん。
いっそ、「結婚してもシェアハウスに住んでくれる人を募集しよう」と考えて昨年11月にブログに載せたところ、全国から25人の応募があり、説明会やグループディスカッションなどを経て12月から、7歳下の現在の彼氏とお付き合いすることに。
彼氏の住んでいた家の更新時期の関係で、今年2月から一緒に住んでいます。

外見でなくビジョンで選んだ彼氏
応募してきた人たちは「みんな真面目で、私の考えに共感してくれている人が多かったのが意外だった」。その中で今の彼氏を選んだ理由は外見ではなく、自分のビジョンに一番近く感じたところがあったからとか。
「七つ下で同じことを考えている人がいるんだな、と感じた。結婚してもシェアハウスって、既存の概念ではないわけです。そんな中、全く同じ考えではなくても、課題意識を持って、解を自分の中で導き出せるという点で信頼感があった」と話します。

子育てもシェアハウス、問題点はないの?
ただ、「子育てもシェアハウス」という考え方に課題はないのでしょうか。
奈央美さん、阿部さんはともに、子どもが学齢期などになった際、果たして今の都心に近い場所が子育てに良いのかどうか、という点を挙げました。
最終的に別の場所に移るとなった場合、それは住人全体で決めるのではなく、夫婦の判断で決めることになるのでは、と予想されます。
「それは、なった時に考えるしかない。ただ、1回やってみて、こうだったよ、という事例が生まれることがすごく大事」と阿部さん。
そうした「社会実験」のてん末を、新たに本にすることも考えているそうです。