児相に警官 虐待対応 茨城

読売新聞 2014年3月30日

 児童虐待への対応を強化するため、県警は4月1日付で初めて現職の警察官を県福祉相談センターに派遣する。県警が2013年に認知した児童虐待は160件で、統計を始めた01年以降最多となっており、派遣で県との連携を深めて虐待の早期発見につなげたい考えだ。
 県警によると、派遣されるのは少年課付の田所丈彦警部補(48)。同センターの中央児童相談所(水戸市水府町)で勤務し、県内各児相や警察との調整役を担う。立ち入り調査に抵抗する保護者への対応なども期待されており、少年課は「事件化を図るだけでなく、子供の安全確保のために、県との連携を強固にしたい」と話す。
 少年課によると、児童虐待の認知件数は、社会的関心の高まりなどもあって、08年の60件からほぼ毎年増加を続けている。昨年は160件のうち身体的虐待96件(前年比18件増)、心理的虐待31件(同7件減)、ネグレクト(育児放棄など)27件(同2件増)、性的虐待6件(同5件増)。県警は前年より25人多い207人について児相に通告し、4件を摘発した。
 県子ども家庭課によると、児相などに寄せられた12年度の虐待通告も864件(前年度比12件減)、一時保護は62人(同27人減)に上った。全国的に増加傾向にある中、現職警官の派遣を県は「非常に心強い」と歓迎。特に警察は24時間、365日いつでも対応でき、機動力の面では児相を上回る。これまでも児相には県警OBがおり、児相側からは「助かっている」という意見が上がっていた。
 虐待については、警察は事件として捜査するが、児相は福祉的な支援という側面が強い。これまでも相互理解を図るため、12年に県が設置した県要保護児童対策地域協議会の警察部会で、虐待事例の情報共有や個別事案に関する意見交換を行ってきた。子供の安全確認や一時保護を行う際に保護者などに抵抗されることが予想される場合には、児相はOBと相談して、警察署に援助要請を出していた。
 新年度からはOB3人と現役1人の計4人態勢となり、筑西、土浦児童相談所にも配置される。現役警察官が加わり、子ども家庭課は「警察と児相の相互理解がいっそう進み、垣根が低くなる。切迫した状況での判断にもたけている」と期待している。

「免許外」授業の私立高4校、補助金減らす県

読売新聞 2014年3月29日

 長野県は28日、佐久長聖や松商学園、創造学園、飯田女子の県内私立高4校で、教員が必要な免許を持たずに授業する教員免許法違反の事実があったとして、2013年度分の補助金を4万円~31万円減額することを決めた。
 県は「4校とも意図的なものではなく、今年度2学期から違反が解消されている」と説明。授業内容はいずれも学習指導要領に沿って行われたことを各学校長が確認したという。
 松本市の私立小中一貫校「才教学園」で昨年8月、中学校の教員免許しか持たない教員に小学校の担任をさせるなど、開校以来違法な教員配置を続けられていたことが発覚。県が同様の例がないか調べていた。
 佐久長聖では、「地理・歴史」の免許を持つ教員が「現代社会」や「政治経済」を教えるなどして3人が免許外の授業を行った。松商学園では「公民」の教師が「地理B」を、創造学園では「公民」と「養護」の教師2人が「世界史A」「福祉」を、飯田女子では「地理・歴史」の教師が「現代社会」を教えていた。
 一方、県は同日、才教学園に対し今年度1学期の違法授業相当分として1315万円の減額を決めた。

ドラマ「明日、ママがいない」検証

読売新聞 2014年3月28日

 舞台となった児童養護施設の描写などをめぐり、物議を醸したドラマ「明日、ママがいない」(日本テレビ系)の放送が終わった。
 最終回まで見て、果たして、その表現をどう評価したか。全国児童養護施設協議会関係者と、放送批評の専門家に話を聞いた。

視聴者の感じ方は自由
 上智大教授・メディア論 碓井広義(うすいひろよし)氏
 半ば予想通りの結末だったが、ようやく最後で、ドラマが伝えたいことを視聴者は感じ取れたのではないだろうか。
 施設にいた4人の子供はそれぞれ、違った道を進んでいった。大人ではなく、自らが選択した道を。子供たちも自己決定しなければいけない時代になったことを示しているように感じた。また現代的な親と子の断面も切り取って見せた。親子関係に正解はない。子供が幸せになればいいという主張も含んでいたと思う。
 今回、施設長の発言などが、児童養護の実態と異なると批判された。だが、特定の個人を傷つける場合を除き、フィクションの表現は、目を背けたくなるようなものも可能な限り許されるべきだ。誇張して表現することで、本質を浮かび上がらせることもある。
 ただし当事者への配慮は必要で、それもまた表現の一部だろう。今作の脚本は「分かりやすさ」を優先させ、児童養護というデリケートな問題に対し、稚拙だった。その意味で、制作者の責任は大きい。
 ただ制作者の狙いとは別に、視聴者の受け止め方は自由だ。極端に言えば、「誤読」する楽しみもある。誰も見向きもしない一言に、感動する人もいる。「こう感じるはずだ」という決めつけはよくない。
 今回はインターネットも含めた世論形成過程で否定の同調圧力を感じた。ある流れと方向ができると、異論を挟むことが難しくなる。その点も現代を象徴していたのではないか。(談)

許容の幅を大きく逸脱

全国児童養護施設協議会副会長 武藤素明(むとうそめい)氏
 1~3話に比べ、中盤以降は変わったように感じる。愛をテーマにした人間ドラマにするように努め、評価できる部分はあった。すべてがとんでもないとは思わない。子役たちの演技は素晴らしく、引き付けられた。
 ただやはり前半は行き過ぎだった。テレビだから「分かりやすく」と言われるが、当事者からすると「なぜあんな場面にするのか」と違和感が強かった。
 フィクションだから、現実と違う部分があるのは承知している。ただ今回は、それが多すぎた。マイナスイメージを助長し、子供がいじめの対象となる可能性もあった。子供をペット扱いするようなセリフもあったが、もっと表現を工夫できたはずだ。
 現実を100%再現してほしいと求めているわけではない。しかし、許容されるフィクションの幅というのはあると思う。このドラマは、それを大きく逸脱していた。取材をしたと言われるが、まずストーリーありきで、それから取材をしたようにも感じた。
 もちろん自分の考えを代弁してくれたと感じる子もいた。ただ、ドラマを見ただけで深く傷つく子もいる。子供たちはそれぞれに事情を抱え、育った環境も経験も違う。今の状況を、きちんと知ってほしかった。
 社会に児童養護が知られていないことも、今回の問題の要因だったと思う。テレビを通じて、子供たちの実情を知ってもらうのは重要だ。積極的に取材、報道していただけたらと願っている。(談)

粗筋と経緯
 ドラマ「明日、ママがいない」の舞台は、児童養護施設の「コガモの家」。ここには、育児放棄や虐待、経済的事情などで親元を離れた子供たちが集まり、ポスト(芦田愛菜)、ドンキ(鈴木梨央)などあだ名で呼び合い、暮らしている、という設定だった。
 施設長(三上博史)は「子が親を選ぶ」という考えで、里親希望の夫婦の情報を入手して子供たちに紹介したうえで、歩むべき道を子供自身に決めさせていた。
 第1回の放送後、通称・赤ちゃんポストを運営する熊本・慈恵病院が、赤ちゃんポストに預けられていたという設定の子供が「ポスト」と呼ばれることなどを問題とし、放送中止を求めた。また施設長が子供に暴力をふるう場面や子供たちをペット扱いする描写が、児童養護に対する誤解を助長し、施設関係者や子供たちを傷つけるとし、関連団体が内容の変更を求めた。
 日本テレビは「最後まで見れば理解してもらえる」とし、放送を継続していた。
 (大木隆士)

児童自立支援施設

西日本新聞 2014年3月29日

 非行問題を抱えるなど生活指導が必要な原則18歳未満が集団生活する福祉施設。家庭裁判所の保護処分や児童相談所の措置によって入所する。1998年の児童福祉法の改正で教護院から名称が変更。少年院が閉鎖された施設内で矯正教育を行うのに対し、開放された施設の寮で暮らし、職員が親代わりになって支援する。全国に58カ所あり、多くの施設では、併設された公立小中学校の分校で授業が行われている。

懲罰廃止 少年変わる 福岡学園 穴掘り発覚1年 対話を重視 内省深める
 非行少年らの立ち直りを支援する福岡県立の児童自立支援施設「福岡学園」(那珂川町)が、少年に穴掘りをさせるなど懲罰的な指導を繰り返していた問題は、発覚から1年を迎えた。学園は発覚後、苦痛を与える指導を廃止。力に頼らず、言葉によって内省を深めさせるよう努力した結果、少年たちの問題行動が減り始めた。よりきめ細やかな指導のためには、職員の専門性の向上や負担軽減が求められており、第三者機関が近く、改善点を提言する調査報告書を公表する。
 25日、学園を訪ねると、グラウンドで少年たちが大きな掛け声を出しながら野球の練習をしていた。10代半ばの、表情に幼さの残る少年たち。すれ違うとあいさつをしてくれる。
 1年前、畑の隅に少年が掘った深さ2メートル以上の穴は埋め戻されていた。問題を検証するため県が設置した第三者機関(会長・安部計彦(かずひこ)西南学院大教授)が昨年8月にまとめた中間報告書では、穴掘り以外にも体罰や長時間のランニング、1カ月以上個室で過ごさせ学校に通わせないなど、懲罰的な指導が頻繁に行われていた実態が明らかになった。
 学園の小寺高文園長は「人権意識が欠けていたことが分かってきた。反省している」と述べた。
 学園では昨年3月以降、穴掘りなどをさせた「特別指導」を廃止。少年が暴言を吐くなど問題行動があった場合には、時間をかけて話し合ったり、作文を書かせたりする指導に重点を置くようになった。小寺園長は「突然暴れる、言葉が伝わりにくい、という少年もいて、どんな指導が効果的なのか、試行錯誤を続けている」と話す。重いルール違反とされる「無断外出」は、昨年度の32件から本年度は6件と大幅に減った。
 県は指導の充実を図るため、新年度から学園内に「児童自立支援専門監」のポストを新設。有識者が指導内容の検証や助言をする専門委員会も設ける。
 記者が見せてもらった元入所者の少女の作文には、自身のつらい生い立ちがつづられていた。「ママと初めて会ったのは小学生になってからでした」「ママの家で暮らすことになり、日常のように殴られ、虐待されました」「夜遊びが心をいやしてくれました」-。全国の児童自立支援施設では、虐待を受けた経験や発達障害がある入所者の割合が増加している。
 学園関係者は言う。「非行の問題を抱える少年のほとんどは、恵まれない環境に育っており、大人への不信感が強い。学校や地域でも、愛情を持って我慢強く見守ってほしい」

歩きスマホは「歩く凶器」
第4回 歩きスマホ、ながらスマホ 小林 直樹

日経ビジネスオンライン 2014年3月28日

 全スポンサーが降板する騒ぎになった日本テレビ系ドラマ「明日、ママがいない」のCM枠で、代わりに放映されたACジャパンの公共CMの一つに、「ながらスマホにマナーを。」がありました。多くの人が「そうそう」と思うテーマ、かつNHKの朝ドラ「あまちゃん」で若き日の春子役を演じた有村架純さん出演ということもあり、サシカエCMの中でも大きな反響がありました。
 今年1~2月には、「やめましょう、歩きスマホ。」と書かれたポスターが交通機関や自治体施設、大学キャンパスなどで掲示されました。ところが、そんなポスターの前を「歩きスマホ」で通過していく人が後を絶ちません。広告メッセージというものは、届いてほしい人に限って往々にして届きにくいものです。歩き“ながら”はもちろんのこと、携帯音楽プレーヤーで音楽を聴き“ながら”や、自転車に乗り“ながら”はさらに危険度が増すことになります。

小学生の転落事故も発生
 国土交通省によると、スマホやゲーム機などの携帯端末を操作中に駅のホームから転落した事故は、2011年度は全国で18人、2012年度は同19人に上ります。2013年5月には、JR四ツ谷駅で携帯電話を操作しながらホームを歩いていた小学5年の男子児童が中央線のホーム下に転落。直後に東京行きの快速電車が進入しましたが、児童はホームと線路の隙間に入ったことで最悪の事態を免れました。また、都内でスマホや携帯電話の“ながら”利用が原因とみられる事故で救急搬送された人数は、2013年は36人で、2010年の23人から大幅に増えたという数字が出ています。
 こうした事故はしばしば報じられているものの、歩きスマホの習慣はなかなか改まりません。モバイル市場の動向をリサーチしているMMD研究所(東京都渋谷区)が、スマホを持つ18歳以上の男女558人を対象に2013年11月に実施した調査では、歩きスマホをしている人は57.1%。「日常的に歩きスマホをしている」と回答した118人のうち、5人に1人以上の22.9%が歩きスマホ中に「事故またはけがをした経験がある」と回答しています。一方、「ほとんど操作しない」と回答した人まで含めた487人を対象に事故経験を尋ねると、その数字は8.8%に下がります。
 一方、「歩きスマホをしてる人は迷惑だ」と思う人は78.2%に上りました。他人の歩きスマホを見て「危ない」「迷惑だ」と思いながら自分もしてしまう人が相当数いることが分かります。

歩きスマホは歩きガラケーより危険
 しかしながら、スマホ以前のガラケーの時代から「歩きケータイ」「歩きメール」はあったのに、なぜ今になって急に「歩きスマホ」がやり玉に挙がっているのでしょう。
 筑波大学大学院人間総合科学研究科で交通バリアフリーなどが専門の徳田克己教授が、両者の違いを調査しています。
 2013年5月、通学に電車を利用していて人混みの中を歩くことが多い大学生650人を対象に調査したところ、「スマホなどの携帯機器を使いながら歩いている人とぶつかったり、ぶつかりそうになったりした経験のある人は61%に上り、実際にけがをした人も15人いる」という結果でした。
 徳田教授は2007年にも従来型携帯電話の「歩きケータイ、歩きメール」について同様の調査をしていました。そのときは、「70歳以上の高齢者の42%が、歩きケータイの人に実際にぶつかったりぶつかりそうになったことがある」という結果でした。つまり、危険を察知すれば俊敏によけられるはずの大学生の「衝突&ヒヤリ経験」が、6年前の高齢者より増えているのです。
 徳田教授はこの数字について、「スマホは、ゲームや動画、やりとりがスピーディーに進むSNSなど、画面を注視する時間が携帯電話よりも長くなるため、危険度は格段に増しています。タブレットを持つビジネスマンとの接触も目立ち始めました。スマホより画面が大きいタブレットは視野を遮断する割合が高いため、さらに危険です」と説明します。
 たった3秒、スマホ画面に集中しただけで、人間は3メートル歩きます。画面に目を落としたとき、3メートル先のベビーカーや車椅子はまず視野に入りません。徳田教授は、歩きスマホが、すれ違う幼児や高齢者、障害者にとって「歩く凶器」になっていることを懸念しています。

ドコモはアプリで防止
 これ以上、歩きスマホによる事故が多発するようになれば、「歩きタバコ」を禁止する路上喫煙禁止条例が施行されたように、歩きスマホが法規制される可能性もありえます。前述のMMD研究所の調査では、規制や罰則について「必要がある」という回答が42.3%に上っています。しかし、もし駅ホームでの利用に大々的に規制が入るようなことがあれば、乗換案内や時刻表を調べたいときに非常に不便です。
 そこで、携帯電話会社も対策に取り組み始めました。NTTドコモは2013年12月、「歩きスマホ状態」を自動検知して画面に警告を出す機能を、アンドロイド端末向けアプリNTTドコモが提供を始めた「あんしんモード」に追加しました。運転中にカーナビの操作をできなくする機能のスマホ版と言えば分りやすいでしょう。「あんしんモード」アプリの最新版をインストールし、「あんしんモード」の設定から「歩きスマホ防止機能」にチェックを入れると利用できます。利用料は無料。こうした取り組みが、歩きスマホ問題の意識の高まりや事故の減少につながることを期待したいです。
 では、最後に僭越ながら「スマホマナー5カ条」を挙げさせていただきます。

(1)歩行中に操作が必要になったら、道の端に寄って「立ち止まりスマホ」
(2)自動車・自転車運転中の「ながらスマホ」は絶対禁止
(3)イヤホン、ヘッドホンで耳をふさいだ状態で操作しない
(4)路上のほか、電車の乗降時、自動改札、建物の出入口、横断歩道、階段、エスカレーターの乗り口・降り口など、人が行き交う場所での操作は控える
(5)訪問先の地図や電車の乗り換え・乗り継ぎはなるべく出かける前に調べておく

LINE、ネトゲが止まらない
第2回 ネット依存からの脱却 小林 直樹

日経ビジネスオンライン 2014年3月26日

 「ネット依存の中高生、51万8000人」──。2013年夏、衝撃的な数字がニュースや新聞で報じられました。これは厚生労働省の研究班が2012年10月から2013年3月にかけて実施した「未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態調査」で、参考までにネット依存度についても尋ねた結果です。47都道府県の中高生約14万人を対象に学校を通じて調査票を配布し、約9万8000人が回答。喫煙・飲酒については経験、頻度ともに減少する一方で、ネット依存は顕著な数字が出たため、こちらの方が大きくメディアに取り上げられることになりました。

「インターネット依存症」診断テスト
Q1.あなたはインターネットに夢中になっていると感じていますか?(例えば、前回にインターネットでしたことを考えたり、次回することを待ち望んでいたり、など)
Q2.満足を得るために、ネットを使う時間をだんだん長くしていかねばならないと感じていますか?
Q3.ネット使用を制限したり、時間を減らしたり、完全にやめようとしたが、うまくいかなかったことが度々ありましたか?
Q4.ネット使用時間を短くしたり、完全にやめようとしたとき、落ち着かなかったり、不機嫌や落ち込み、またはイライラなどを感じますか?
Q5.使い始めに意図したよりも長い時間オンラインでいますか?
Q6.ネットのために大切な人間関係、学校のことや、部活動のことを台無しにしたり、危うくするようなことがありましたか?
Q7.ネットへの熱中しすぎを隠すために、家族、学校の先生やその他の人たちにうそをついたことがありますか?
Q8.問題から逃げるために、または、絶望的な気持ち、罪悪感、不安、落ち込みなどといった嫌な気持ちから逃げるために、ネットを使いますか?

※厚生労働省の研究補助金で実施した未成年の喫煙・飲酒状況調査の中で、インターネット利用について尋ねた質問内容(2012年度)
※5項目以上該当する場合は「病的な使用」と判定

 調査票は上記の通り。「満足を得るためにネット利用時間を長くしなければならないと感じる」「ネット利用時間を減らそうと思ってもうまくいかない」「ネットのために大切な人間関係を危うくしたことがある」など8項目の質問に対し、「該当する」「該当しない」の2択で回答してもらい、5項目以上で該当すると、ネット依存が強く疑われる「病的使用」の状態にあると判定。その結果、5項目以上該当した生徒が8.1%に上ったことから、全国の中学・高校生の総数から約52万人という数字を弾き出しています。

目安は1日2時間まで
 「見直しが必要な人は実際もっと多いのではないか?」とこの結果に対して指摘するのは、ネット依存の専門外来を持つ成城墨岡クリニック(東京都世田谷区)院長の墨岡孝医師です。
 52万人という数字はインパクトがあるものの、率にして8.1%は35~40人学級で3人程度。しかし予備軍まで考慮すると到底この数では収まりません。
 ちなみにアンケートでは、平日5時間以上ネットを利用する生徒は、中学生男子が8.9%、女子が9.2%、高校生は男子が13.8%、女子が15.2%に上っていました。ネット依存該当者(8.1%)よりも多い数字です。墨岡医師は、「ネット利用時間は、スキマ時間に利用している分を積み上げていくと、自分が思っている以上に多いもの。自己申告で5時間以上は長すぎる」と指摘します。
 ネット依存からの回復には、生活の乱れなどの兆候を早めにつかんで、ネット利用時間を徐々に減らしていく取り組みが重要です。「目安は1日2時間まで。長い人はまず3時間を目標にして、減らしてください」(墨岡医師)。

「ネット依存」と「ネット好き」の境界線は?
 そもそもネット依存、ゲーム依存とはどのような状態なのか。ネット好き、ゲーム好きとの違いはどこにあるのか。墨岡医師は次の3点を挙げます。
(1)ネット、ゲームの利用時間を自分でコントロールできず長時間利用してしまう
(2)ネット、ゲームへの強い欲求があり、ネット、ゲームのことばかり考えてしまう
(3)ネット、ゲームをしていないと不安になってイライラするなどの禁断症状が出る

 (1)は、自分ではやめたい気持ちがあるのに何時までと設定した時間を守れずダラダラと利用してしまう制御困難な状況。夜更かしによる睡眠不足から徐々に生活リズムが乱れていきます。(2)は、ネットやゲームのことが頭から離れない状況。気になって授業に集中しづらくなっています。学校の往復や休み時間はスマホを手放せなくなっています。(3)は、ネット利用を禁じられたりスマホを自宅に置き忘れてネット接続できなかったりした場合に、不安やイライラが募る状況。重症になると、ネット利用をいきなりやめた場合、パニックになって泣きわめいたり家庭内暴力に発展したりするケースもあります。
 一言で言えば、趣味や気分転換といったレベルを超えて、生活に支障をきたしてしまう状況と言えるでしょう。
 墨岡医師は、「子どもはスマホでただゲームを楽しんでいるだけ、はやりのLINEで友だちと盛り上がっているだけ、と甘く考えている親が多い」と警鐘を鳴らします。
 「オンラインゲームの場合、アイテムを入手して仲間から称賛されたりすると、日常生活では味わえない達成感を得られると同時に、その地位から降りたくないばかりに利用時間が増えて深みにはまっていきやすい構造があります。一方、女性は「きずな依存」「つながり依存」でSNSにはまっていくケースが多い」(墨岡医師)。

“お上”から指導が入る前に家庭でルールを
 こうした問題を受けて、愛知県の刈谷市がこの4月から児童生徒に午後9時以降、スマートフォンや携帯電話を使わないよう呼びかけたり(参考記事)、東京都青少年問題協議会が保護者と中高生に緊急メッセージを発したりと、ネット依存予防に向けて自治体が対策に乗り出そうとしています。
 スマホをどう使うかなど、本来“お上”の出る幕ではありません。しかしながら子どもと保護者の自主管理に任せても事態は悪化の一途で、コトが起きれば「社会が悪い」「学校が悪い」の合唱では、強権発動を引き出しているようなものです。
 また、「本心ではもう止めたいのに『既読スルー』だの何だの言われかねないから仕方なく付き合っている。一律禁止にしてくれた方が助かる」といった声が生徒側から少なからず挙がっているのも事実。「ウチは親がうるさいから9時で落ちまーすw」と笑顔で離脱できる子が一定数いれば、深夜に至る不毛なLINEの応酬やゲームに心身をすり減らすこともなくなるでしょう。同様の問題意識を持つ保護者が連携して、子どもが孤立せずに離脱しやすくなるよう、各家庭でルール作りに取り組んでいただきたいところです。

依存の原因を探り解決へ

 依存は重症になると、もはや意志の力では回復が難しくなります。一流だったアスリートが挫折やケガで意気消沈している最中に気晴らしにやったギャンブルでビギナーズラックに当たり、そのままハマリこんでいく。あるいは酒に溺れていく。そんなケースが多々あります。体育会で長らく厳しい練習に耐えてきた人が、意志が弱いはずがありません。それなのにやめられない。80年代にスキーのジャンプで活躍したフィンランドの“鳥人”マッチ・ニッカネン選手、地元シドニー五輪で輝いた競泳のイアン・ソープ選手らが、引退後、アルコール依存症に悩まされているといいます。
 「依存状態になる子どもは、学校に居場所を見出せなかったり目標を見失っていたりするケースが多い」(墨岡医師)。時間短縮に取り組みながら、こうした問題の根源についても解決の道を考えていかないと、ネットからは離れたが他の行為に依存がスライドしただけになる場合もあります。
 単に買ったばかりのゲームが面白くてなかなかやめられないのか。目標を見失ってポッカリ空いた心の穴を埋めるべく、ネットに耽溺しているのか。もし後者であるなら、親としてやるべきことは、強引にスマホやゲーム機を取り上げる前に、心の声に耳を傾け、軌道修正をともに考えながら、モチベーションの再点火を支援してあげることでしょう。