自殺者が多くなる長期休み明け、その”サイン”に気づく方法

週刊女性PRIME 2015年8月31日

もうすぐ夏休みが終わる。子どもが学校でのいじめや人間関係に悩み、登校するぐらいなら……と死ぬことを考えているかもしれない。わが子を守るには、口には出さないサインに気づく必要がある。
18歳以下の子どもが自殺した日を内閣府・自殺対策推進室が調査したところ、夏休みの終わりから、休み明けにかけて多いことがわかった。
1972年から2013年の42年間について、厚生労働省の人口動態統計から1万8048人を日付別に分析した。夏休み期間でも8月中旬までは比較的少ない一方、夏休み明け初日の9月1日だけは3ケタの131人と突出していた。次いで春休み明けの4月11日の99人。さらに4月8日の95人、9月2日の94人、8月31日92人と続く。8月下旬から連日50人を超えており、夏休みの終わりに絶望に追い込まれやすいことがわかる。
「長期休み明けの自殺者が多いことはわかっていた。しかし、これほどピンポイントで集中しているとは思わなかった」(全国紙社会部記者)
筆者のこれまでの取材でも、8月下旬から9月上旬にかけて、18歳以下の子どもが何人も自殺している。家族や友人、恋人との関係で悩んでいた女子高生は8月下旬の深夜、精神科で処方された薬を大量に飲んで命を絶った。死の直前、筆者を含めた何人かに、感謝の意を述べる遺書めいたメールを送ってきた。自殺の理由は書いてなかった。
報道された範囲で言えば、昨年8月31日午後7時ごろ、東京都墨田区内のマンションで人が転落したとの通報があった。敷地内では中学1年の男子生徒が倒れていた。母親に「買い物に行く」と言って外出。防犯カメラにはひとりで10階に向かう姿が映っていた。遺書はなく、家族にも心当たりはない。
同じ日の午後9時10分ごろ、愛知県安城市内のマンションに住む中学2年の女子生徒が敷地内に倒れていた。約1時間後に死亡。書き残したメモにいじめの記述はなかったが、学校になじめず、居場所がなかったことへの苦しみが綴られていた。
また、’12年9月2日、兵庫県川西市の県立高2年の男子生徒が自宅で自殺した。複数の生徒から、「虫」「菌」と呼ばれるなどいじめを受けていた。県教委が設置した第三者調査委員会はいじめを認定したものの、自殺との因果関係は否定した。遺族は現在、同級生と当時の学校長、担任教諭ら6人と県に対して裁判で損害賠償を求めている。
全世代の年間自殺者は徐々に減少傾向にある。3年連続で3万人を割った。しかし、若年層は他の年齢層よりも減少幅が少ない。自殺対策推進室では、若年層の自殺傾向を把握しようと、有職者、無職者、学生に分けて傾向を調べ、『自殺対策白書』にまとめた。
特に学生については、学校との関連性が高いのではないかとの推論のもとに、日別の調査を初めて行った。42年間で日別平均は50人弱。年末年始は少なかった。
若い自殺者の総数は他の年代層よりも少ないが、
「10代の前途ある人が絶望して命を絶つというのは、この国の閉塞感を示している。自殺死亡率だけに注目せずに、児童生徒を見ていく必要がある」(自殺対策推進室)。
実は5年前の『自殺対策白書』では、’04年から’08年の5年間について、年齢を限定せず自殺者が多い日別データを示している。全年齢層で最多は3月1日。9月1日は6番目の多さだった。
渋谷や新宿などの繁華街で夜回り活動をしたり、荒川区の自殺予防相談事業の一環で、10代、20代の女性を対象に相談事業をしているNPO法人『bond project(ボンド・プロジェクト)』には、新学期が近づくと、

学校に行きたくない。死にたい
といったメールが届く。代表の橘ジュンさんはこう話す。
「学校に違和感を抱いている子は夏休みが終わりに近づくと、死にたい気持ちのカウントダウンが始まる。特に部活をしていない子の場合、いきなり学校が始まる。周囲の態度が不安だったりする」
また、若者層の心の病を防止することを目的に、家族や友人らを適切に支える術を身につけるための活動をしているNPO法人『Light Ring.(ライト・リング)』の代表理事で、精神保健福祉士の石井綾華さんは、
「この時期に自殺が起きやすい、ということを小中学校のPTAやご両親、児童生徒に関わる方々の共通認識として広めることが重要だ」と話す。
自殺対策推進室でも、
「現場の教師は夏休みの終わりの時期、児童生徒たちの変化を注意深く見て職員間で情報共有することが大切だ」
と話している。
文部科学省は8月4日、児童生徒の自殺予防に関する通知を出した。今年7月に岩手県・矢巾町の中学2年・松村亮くん(13)が自殺したが、職員間で情報共有されていなかった反省に基づく。内容はいじめの対応が中心だが、内閣府の統計を踏まえ、18歳以下の自殺が多い長期休み明けには、児童生徒への見守りを強化することを求めている。
自殺が集中する警戒期間には、何に注意すべきなのか。
文科省作成のパンフレット「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」によると、自殺直前のサインとして、「集中できなくなる」「成績が急に落ちる」「投げやりな態度が目立つ」「健康や自己管理がおろそかになる」「引きこもりがちになる」「家出や放浪をする」「自殺にとらわれ、自殺についての文章を書いたり、自殺についての絵を描いたりする」などが挙げられている。
例えば、歯磨きをしなくなったり、服装に気を遣わない、または髪の毛がボサボサになっても気にしなくなった場合、それは自殺のサインかもしれない。自分のことを大切にしなくなる傾向があるからだ。
しかし、簡単には見破りにくいことも……。
「親など他人に傷を見られることを嫌がって、自傷行為で身体を傷つけることはせず、市販の風邪薬の過剰摂取をする場合もある」(橘さん)
そのため、「長期休業の直後は、生活環境などが大きく変わり、大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすいため、組織的な対応が求められる」(同省の初等中等教育局・児童生徒課)としている。
児童生徒たちは必ずしも自殺の理由をはっきり提示するわけではない。遺書や日記など「自殺の原因・動機に関する判断資料」がない比率を見ると、15歳以上では4人に1人が資料なし。15歳まではそうした資料がない比率はもっと高い。
橘さんは「15歳以上の場合は、携帯電話の所持率が高く、SNSやブログ、メールなどに思いが残っている場合があるが、15歳未満の場合、ツールもない。誰にも言えないか、気持ちをきちんと整理できていないのではないか。問題行動があれば周囲もチェックできるが、心の問題は見えにくい」と分析する。
前出の石井さんは、法人で悩み相談を受けたときに、傾聴などのスキルを身につける「ソーシャルサポート力養成講座」などを開き、必要なときには専門機関につなぐ対処法を学ぶ場を提供している。
「児童生徒は”悩んでいることやいじめられていることを絶対に知られたくない”と、元気な自分を演じることがある。日常生活で意識的に会話をすることで前兆の有無を確かめ、相手の話したいことを存分に引き出し、傾聴を行うことでプレッシャーを和らげることが効果的だ」
子どものことが心配になったら親として直接話しかけてみるのもいい。なかなか声をかけられない場合、電話相談の情報(※以下参照)を伝えるのもいいかもしれない。
電話相談 チャイルドライン(18歳未満、日曜を除く16~21時)TEL:0120-99-7777、24時間子供SOSダイヤル TEL:0570-0-78310、よりそいホットライン(24時間)TEL:0120-279-338

中学生の深夜徘徊は「管理」で防げるか? 寝屋川・中学生殺害事件における筋違いな“親の責任”論

messy 2015年8月30日

大阪府高槻市の駐車場で8月13日、寝屋川市に住む中学生、平田奈津美さん(13=当時)の遺体が見つかった事件は最悪の結末を迎えた。大阪府警は21日に平田さんに対する死体遺棄容疑で寝屋川市に住む山田浩二容疑者(45)を逮捕したが、この同日、平田さんと一緒に行動していた同級生の星野凌斗(りょうと)さん(13=同)の遺体が同府柏原市で発見された。
ふたりは13日の午前1時から5時ごろまでに、商店街を歩いている姿が防犯カメラに確認されており、その後、平田さんは遺体で見つかり、星野さんは行方不明となっていた。
逮捕された山田容疑者はふたりと面識がなく、また過去にも中学二年生の男の子を車に監禁し、現金などを奪うという強盗、逮捕監禁事件を起こし服役の過去があったこと、事件発生の2日前に東京・秋葉原で職務質問を受け、車内からスタンガンなどが発見されていたことなど、続報が次々と出てきている状況だが、等の山田容疑者は現在「車に連れ込んだのは私だが、同乗者が殴り、知らないうちに死んでいた。同乗者が遺体を遺棄した」などとし、容疑を否認している。捜査はまだ継続中だ。

この件に絡み、山田容疑者が逮捕される直前、元横浜市長の中田宏氏がブログに「皆で考えましょう。子供の深夜外出、親の責任」と題する記事をアップ。議論を呼んでいる。

深夜に家を飛び出した経験はありませんか
記事で中田氏は「テレビコメントなどでは遠慮されてなかなか発言は無いようですが、中学生などまだまだ小さな子供が真夜中に出歩くということについて、家庭も社会もそして地域も考える必要があると思います」と訴え「横浜市長を務めていた平成15年に”夜間外出禁止令”を提案したことがある」と明かしている。「私たちはこの事件も教訓に、まだまだ保護が必要な未成年を抱えている家庭、また地域のおいて、子供に外を出歩く時間でない時はしっかりとそう伝えていくことが必要だと思います」と記した。もちろん「この事件で悲惨な状況に巻き込まれている保護者を責めるものではありません」との注意書きも忘れてはいないのだが、この流れで今回の被害者たちの保護者らに注目が集まるのは必然だった。
SNSでは「親が親なら子どもも子ども」「親の責任は重い」などをはじめとして、今回の事件は被害児童の保護者らに罪があるという趣旨のコメントが非常に目立つうえ、ひとりの保護者は一時期、一部で犯人扱いされるという事態も発生していた。
だが今回の事件と“深夜に外出する未成年に対する親の責任”は切り離して考えるべきであろう。当然ながら、誰が悪いかと言われればもちろん、平田さんと星野さんを殺害し遺棄した犯人であることは間違いない。山田容疑者が逮捕される前、ふたりの保護者についての報道もあり、平田さんが母親と不仲であること、ふたりが家出をしていたことが報じられていた。だが、保護者がふたりを殺害したのではない。もしこの日、ふたりが犯人と出会わなければ? いつか生きた状態で保護者の元に帰ってきたはずだ。
深夜に未成年を徘徊させることを許した家族を責める声が多いが、では未成年の時期、深夜に外出した事がない、という者はどの程度存在するのだろうか。地元の祭り、親との喧嘩、ライブ帰りに友達と盛り上がる、部活動や体育祭文化祭などの打ち上げ、親が急病になったため近隣宅に助けを求めに行く……など様々な事情で、深夜に外出したことのある者はいるのではないだろうか。

また、保護者の立場に立って考えてみると、子どもと本気の喧嘩をして、うっかり啖呵を切ってしまい「勝手にしろ」と思ってもないことを言い外出を黙認した、という苦い経験を持つ親は少なくないのではないか。筆者も今ほどコンビニが全国あちこちに普及していなかった子供時代——小学生や中学生の頃に、親と喧嘩をして深夜に家出をしたことが数度ある。幸い、何の事件にも巻き込まれずに済み、頭を冷やしてから自宅に戻って謝ったが、精神的に困っている状態でフラフラしていたあの夜あのタイミングで、知らない大人に親切な口調で話しかけられたら、「普通の優しい人だ」と受け取ってしまっただろうし、喧嘩後で自暴自棄になっているので、何か悪い予感がしたとしても、誘いに乗っていた可能性は全否定できない。どんな理由であれ、子供にとって深夜に家にいないのは“特別”なことであり、その“特別”感から、気持ちも揺れやすい。筆者は単に運が良かっただけであり、犯人はこうした子どもの“特別”な外出、いつもと違う気持ちにつけ込んだのだ。

家は安住の地として機能するか
西東京市で昨年7月、中学2年生の男子生徒が自宅で死亡されるのが発見され、義父の男が逮捕された。義父は男子生徒に度重なる暴行や暴言を加え、自殺するように告げたのである。この男子生徒は事件前、夜中に家出をしているが、たまたま出会った警備員の男性に話を聞いてもらい、最終的に自宅に戻った。そして事件は起こったのである。また、男子生徒は学校に義父からの暴力を打ち明けていたが、学校の会議では「様子見」とされ児童相談所への通告を見送られていた。この事件の場合、家の外に出ていれば助かったかもしれない。家の中に危険が充満している家庭が日本には決して少なくない数存在し、そこにいるからこそ命を失ってしまう子どもたちもいるのだ。深夜徘徊している子どもたちに出くわせば、大人は「家に帰りなさい」と言うだろう。だが家の中が地獄だったとしたら、子どもたちは夜中、どこにも居場所がない。
子どもの深夜徘徊は家庭に何かしらの問題をはらんでいる可能性がある。しかも、学校や地域がうすうす異変に気づいていても見過ごされることがある。寝屋川市の事件でも、近隣住民が被害者の家族についてニュースで色々なコメントをしている。そうした近隣住民の証言が真実であるならば、何らかの問題がある家庭だと周囲が認識していたにもかかわらず、無視され続けていたということになる。深夜に家出しなくて良くなるよう、あるいは家出しても居場所を作ってあげられるよう、異常を感じた誰かが行政・福祉にはたらきかけることは出来なかったか。
子どもの深夜徘徊に対して単に“親の責任”と言うだけでは、本当の問題は解決されないままだ。なぜ子どもが家を出ようとしたのか、そこを考えなければ、深夜徘徊はなくならない。
家庭に問題があるとき、子どもは家の外に助けや息抜きを求めに行く。この場合、親も自分の家庭が問題を抱えていることを認識しているかもしれない。しかし家庭内のみで解決できないならば、親は外部に助けを求めることが必要だ。親がそうしないのならば、子どもが、そして子どももそうできないならば、異変に気づいた誰かが。なんでもかんでも“親の責任”で片付けるのではなく、子どもも親も、また近隣住民もSOSを発信でき、それが解決に活かされるような場所や機関の充実が、行政に求められているのではないか。
(高橋ユキ)

<ケータイ販売>実態と異なる「還元」「おトク」のワナ

毎日新聞 2015年8月30日

携帯電話の販売現場で、実態とは大きく異なる「還元」「おトク」という言葉が躍っている。野村総研上席コンサルタントで、情報通信政策に詳しい北俊一さんは「携帯電話業界には良識や品格という言葉が欠如しているとしか思えない。言葉巧みに消費者を“優良誤認”させた者が勝ち、という考え方がいまだにまかり通っている」と憤っている。

使えなくなった「キャッシュバック」に代わって登場
「家族5人なら最大約58万円還元」「家族4人だと今だけ57万円以上もおトク!」といった言葉がチラシに躍る。ごく最近のものだ。このチラシを見て、「こんなに多額の現金がもらえるのか!」と思ってケータイショップに駆け込んではいけない。ここには巧みなわなが仕掛けられている。「キャッシュバック」とは全く異なるのだ。
「キャッシュバック」という言葉は2014年4月1日以降、ケータイショップの店頭やチラシから一斉に姿を消した。1回線契約当たり10万円を優に超える多額のMNP(同番号乗り換え)キャッシュバック合戦に対して、総務省からご指導が入ったからだ。
とはいえ、その後も週末などにゲリラ的にキャッシュバック・キャンペーンを行うケータイショップや量販店は一部存在しているが、当時の金額に比べれば可愛いものだ。
この「キャッシュバック」という言葉に代わって登場してきたのが、「還元」「おトク」という言葉だ。仕組みを解説しよう。

料金割引の条件は複雑すぎて理解不能
例えば、某auショップのチラシ「家族5人なら最大約58万円還元」の場合は、以下のような計算になる。
他社からのMNP▽「誰でも割」契約(2年間拘束契約)▽「スマートパス」などお店指定のオプション加入▽お店指定のスマホ購入--などの条件付きで、端末代金を上限とする最大6.5万円が値引き(「誰でも割」+「毎月割」)され、ここに2台以上家族同時契約で最大2万円値引き▽下取りプログラムで最大2万2680円値引き▽お店のキャンペーンで最大1万円値引き--を足すと、合計で1人最大約11.7万円の値引きとなり、5人で計約58万円が値引きされる、という内訳だ。
「最大」という言葉がついているのでうそは書かれていないが、現実に58万円が還元されるケースはほとんどないだろう。加えて、これらの値引きは、毎月の通信料金と端末の割賦代金から割り引かれるため、2年間使って初めて実質的に5人で58万円分がお得になるというものだ。キャッシュバックはゼロだ。
こんなパターンもある。某ソフトバンクショップのチラシ「家族4人だと今だけ57万円以上もおトク!」について内訳を見てみる。
他社からiPhone6へのMNPを条件に、「のりかえ割」1000円×10カ月=1万円▽「スマート値引き」2700円×24カ月=6万4800円▽下取りキャンペーン最大940円×24カ月=2万2560円▽「家族まるごと割」1000円×3カ月=3000円--となり、すべてを足すと10万360円。家族4人分の合計40万1440円に、1人あたりキャッシュバック3万円×4人の12万円を足して、52万1440円という数字が出てくる。
チラシに書かれている57万円との差額の5万円は、チラシに書かれていない何か別のキャンペーンがあるのだろう。私には解読できなかった。
ちなみに、「スマート値引き」は、固定ブロードバンドサービス「ソフトバンク光」への加入に伴う割引であり、「ソフトバンク光」の料金が毎月別に必要になる。

見せかけ数字で消費者を釣る「空っぽ商法」いつまで
これらの表記方法は、キャリアによっても、販売代理店やショップによっても異なっており、相当ケータイに詳しい人でなければ理解することは難しいだろう。
消費者にとって、たくさんの割引があることはうれしいことだ。しかし、見せかけだけの高額な数字で消費者を引きつけておき、ショップで説明をじっくり聞いたら、実は空っぽでした、という商法を一体いつまで続けるのだろうか。このような不誠実な広告表示は、業界団体である電気通信事業者協会が定める広告表示ガイドラインで規制されているはずだ。
ただ、ガイドラインに法的な拘束力はないため、結局守るか守らないかは、事業者や代理店の良心にゆだねられている。携帯電話業界の信頼回復への道のりは、はるかに遠い。