少子化なのに「児童虐待」が8万件を突破…改善のために必要とされることは?

Mocosuku Woman 10月9日

今月8日、全国の児童相談所が平成26年度に対応した児童虐待の件数(速報値)が、過去最多を更新したことが厚生労働省のまとめでわかりました。児童虐待の件数は、調査を開始した平成2年度から24年連続で増加をつづけており、前年度比20.5%増となる今回は、初めて8万件を超えたとのことです。
その一方で、日本における出生率は、昭和50年(1975年)に2.0を下回って以来、減少傾向がつづいており、つい先日も安倍首相が現在1.4程度の出生率を「1.8まで回復させる」ことを目標として掲げたばかり。出生率の低下による少子化の問題は年々深刻になっている状況です。

児童虐待と切り離せないもうひとつの問題
日本では、本来なら「未来の担い手」として大切にされるはずの子どもたちが、虐待の危険にさらされ、「子どもが減っているのに、子どもへの虐待件数は増えている」という事態が起きています。このように児童虐待が増加しつづけている理由として、厚生労働省では「社会意識の高まりによって相談や通告の件数が増えている」ことも考えられると分析していますが、こうした子どもの問題については、その親を取り巻く環境を切り離して考えることはできません。
児童虐待に関わる「親の問題」としては、まず育児ストレスや育児ノイローゼがあげられます。育児ノイローゼの原因としては、配偶者や周囲のサポートを受けられず、母親が1人で子どもと向きあいつづけることになる「密室育児」が関係しているといわれていますが、これには近年における核家族化も影響していると思われます。
24時間体制で子どもと向きあう育児は非常に大変な仕事であり、親の側もはじめは戸惑ったり悩んだりするのは当然です。かつては、「子育ての先輩」である子どものおじいちゃんやおばあちゃんといった存在が、こうした育児の不安を埋める意味で大きな役割を果たしていましたが、近年では核家族化により、「たまにしか孫の顔を見られない」という高齢者も増えています。さらに、年齢・経験を問わず、女性には「完璧な母親」が求められるケースも多く、こうしたことがプレッシャーとなって本人を追いこんでしまう場合もあります。

「コミュニティづくり」の大切さ
児童虐待を減らすためには、育児ストレスや貧困など、保護者が抱えるさまざまな問題に対する国や行政のサポートが必要なことはもちろんですが、保護者の子育ての不安や負担を軽減する周囲の協力体制もとても重要です。
現在、地域によっては自治会などの主導により、シニア世代が子どもの通学路の誘導員(黄色い旗を持って交通指導をする)を担当しているケースが見られます。これは、共働きの世帯が増えたことで、誘導係をすることができない親が増えていることによるものですが、親に代わって係を請け負うシニア世代にとっては、「生きがい」としての仕事が提供される貴重な場にもなります。
少子高齢化が進行している現代においては、児童虐待防止の意味でも、このように地域で子どもを見守り、保護者が子育ての悩みを気軽に相談できる「コミュニティづくり」は重要な課題といえそうです。

<児童虐待>福祉司の増員急務…解説

毎日新聞 2015年10月8日

増加の一途をたどっている全国の児童相談所の児童虐待対応件数は約8万9000件(2014年度)に達した。厚生労働省が調査を始めた1990年度(1101件)の80倍だ。
だが、対応の中核を担う児童福祉司の増員は追いついていない。児童虐待防止法が施行された00年度の対応件数は1万7725件。14年間で5倍になったのに対し、児童福祉司は00年度が1313人、14年度が2829人で、約2倍。1人の職員にかかる負担は重くなり、現場からは「パンク状態だ」との悲鳴も漏れている。
虐待の全体像には質的な変化も出ている。13年に国の指針が見直され、きょうだいが虐待を受けた子どもも心理的虐待を受けたとみなすようになった。このため13年度に心理的虐待は2万8348件に達し、身体的虐待(2万4245件)を初めて上回った。
一方、虐待被害が重症に至るケースも増えているとみられる。全国児童相談所長会の調査では、08年4~6月に頭部の外傷など生命に危険が及んだ子どもは129人、重度の虐待で継続治療が必要な子どもが468人だったが、13年4、5月はそれぞれ114人、442人だった。1カ月平均にするといずれも増えている。多様化する虐待に対応するためにも、児相や自治体の対応力を強化する抜本的な対策に、国は責任を持って取り組むべきだ。【野倉恵】

<児童虐待>「孤立する親救いたい」…幼少期虐待経験の女性

毎日新聞 2015年10月8日

児童相談所が対応した2014年度の児童虐待件数で、大阪府は5年連続で全国最多となる1万3738件を記録した。「周囲から孤立した親を一人でも救いたい」。育児に追い詰められた親を支援する大阪のNPO法人に今年3月、幼少期に母親から虐待されて育った女性(38)=大阪府枚方市=がカウンセラーとして加わり、体験を生かしている。

大阪でカウンセラーに…体験生かし
「職場でストレスを抱え、息子にあたってしまう」「転勤してきたばかりで周囲に頼れる人がおらず、子供に手を上げてしまった」
大阪市のオフィスビルの一室で活動するNPO法人「虐待問題研究所」(上原よう子代表=06・7878・8933)には、多い月で約30件の電話や訪問による相談がある。上原さんも幼い頃に実父らから暴力を受け、その過去を虐待防止に生かそうと3年前にNPO法人を設立した。
女性は同じ境遇を持つ上原さんの活動をインターネット上で知り、カウンセラーに応募した。女性によると、虐待が始まったのは6歳の頃。両親が離婚し、引き取られた母親からだった。「あんたは父さんに捨てられた子だ」。連日の暴力に加え、罵声も浴びせ続けられた。
小学校でいじめられ不登校になった時、古びた自宅アパートの台所で首元に包丁を突きつけられ、「学校に行け」と怒鳴りつけられたこともあった。女性は「虐待の理由は分からなかった。頼る親戚もなく、耐え忍ぶしかなかった」と話す。
高校卒業後に就職したが、人間関係がうまく築けず職を転々とした。何度も自殺を考えるようになった。「自分の心がどうなっているのか。一度向き合いたい」。女性は20代の時に通信教育などで心理学を学び始め、カウンセラーの民間資格を得た。「いつか自分のように孤立した人の頼りになってあげたい」と考えていたという。
女性は31歳で結婚し、今は幼稚園に通う長女(5)を育てる。思い通りにならない子育ては、相談相手がいなければストレスがたまることも想像できるようになった。女性は「虐待のつらさと子育ての大変さを知る立場から、少しでも役に立ちたい」と話した。【千脇康平、遠藤浩二】

保育士の約3割がうつの経験あり

@DIME 2015年10月8日

保育士や幼稚園教諭の人材紹介サービス「保育のお仕事」を展開する、株式会社ウェルクスは、読者を対象に行なったアンケートに基づいた独自のコンテンツを発表した。これは保育士を中心とした読者100人に、仕事におけるストレスの現状や、うつをはじめ心の不調をきたした経験などを伺ったもので、保育士が日常的に大きなストレスにさらされている現状や、生涯でうつ病を経験する割合が10~15人に1人と言われる中、保育士のうつ発症リスクが大きいことなどが伺える内容になっている。
調査の結果、今回は保育士さんを中心とする100名の読者さまにアンケート調査を実施。まず現在仕事に関して精神的なストレスを感じているかを聞くと、実に全体の約半数、49.0%の人が「常に感じている」と回答する結果となった。次に、日頃の業務で「ストレスを感じている」と答えた人に、そのストレスが原因で日常生活に支障が出たことがあるか伺ったところ、「支障が出たことがある」と回答した人が92.0%という結果になった。
実際に現われた症状について聞いたところ(複数回答可)、「気分の浮き沈みが激しくなった(66人)」「眠れない、または眠りが浅くなった(61人)」「倦怠感が強くなった(54人)」といったご意見が寄せられた。仕事が原因で「うつ」と診断された経験がありますか?という質問に「はい」と回答されたのは全体の27.0%。また「診断されたことはないが、自分はうつ状態にあると思う」と自覚症状を訴える人も24.0%いた。また、仕事が原因で、他の心因性の疾患にかかった経験があるかも聞いたところ、「かかった経験がある」という人は32.0%、「診断されたことはないが、何かしらの病気であると思う」と回答した人は12.0%だった。
一方でメンタルの不調で精神科など専門の医療機関を受診することに抵抗があるか(既に受診済みの場合は抵抗があったか)を聞いてみると57.0%、半数以上の人は「抵抗がある(あった)」と回答する結果に。受診経験のある人にも、抵抗があり、なかなか受診に踏み切れなかったというご意見もあった。自由回答の中には「うつになり自殺しかけた。(50代/女性)」というご意見も…。うつから回復した人の意見では、しっかり医療機関を受診し、職場環境を変えることで、改善することができたというご意見が多くあった。
また「病院じゃなくて話を聞いてくれるカウンセリングみたいなところがあれば…。(30代/女性)」「定期的に保育士の話を聞きに来てくれる機関があったらいい(30代/女性)」など、手軽に話を聞いてくれる窓口があれば良いというご意見が多数見受けられた。「精神的に不調でも病院に行く時間を取れない仕事です。(40代/女性)」というご意見もあり、電話相談窓口がつながりにくい、病院などの対応時間内に受診しにくい…そういった潜在的な悩みもあるようだ。
保育士不足が待機児童問題における課題とも言われる現在。保育士の離職率を下げ、また保育に関わりたいと思える体制を作るためには、処遇の改善はもちろん、こういった保育士のメンタルケアに対しても、配慮が必要と言えるのではないだろうか。

調査概要
・実施期間:2015年7月2日~7月13日
・実施対象:保育士(75.0%)・幼稚園教諭(18.0%)・その他保育関連職(3.0%)・主婦その他(4.0%)
・回答者数:100人(平均年齢:33.7歳)
・男女割合:女性/96.0%・男性/4.0%

貧困と生活保護 丸裸になってからの保護でよいのか

読売新聞(ヨミドクター) 2015年10月9日

生活保護を受けるときの要件のひとつは、その世帯が持っている資産の活用です。
現金、預貯金、不動産、自動車、家財道具、掛け捨てでない保険などの保有が、どれぐらい認められるのかが問題になります。
簡単に言うと、現金・預貯金の保有限度額については、非常に厳しいのが現状です。自動車の所有も、かなり厳しくなっています。
一方、住んでいる持ち家や耕作中の田畑は、所有したまま保護を受けられるのが原則です。いま持っている家財道具や電化製品も、一般的なものなら、手放さなくて大丈夫です。

申請時の手持ち金の目安は、保護基準の1か月分
生活保護の対象になるかどうかは、その世帯の1か月あたりの収入と、必要な最低生活費=生活保護基準額(家賃・医療費・介護費を含む)を比べて判断します。収入や医療費は月によって変動するので、過去3か月平均で見ますが、大きく変わる事情があれば、実情にあわせて判断します。
そのとき、手持ちの現金や預貯金の扱いは、どうなるのでしょうか。
結論から言うと、現金・預貯金があるとき、生活保護を申請して認められる実際上の目安は、保護基準額の1か月分です。それを上回る現金・預貯金があると、申請しても却下されます。先に手持ち金を使って生活しなさい、ということです。
実は、厚生労働省は、資産による保護の要否判定の線引きをはっきり示していません。明示しているのは、保護を開始するとき、保護基準額の5割を超える手持ち金があれば、超えた部分を収入として認定し、最初に支給する保護費を減らすということです。

保護開始時の手持ち金は、保護基準の半月分だけ
申請する段階で持っていた手持ち金のうち、保護基準額の5割を超えている分は、あとから保護費の減額という形で“没収”されることになります。
結局、保護を受ける時に保有が認められるのは、保護基準額の0.5か月分にとどまります。保護基準額は、地域、年齢、障害の有無、医療費の額などによって違ってきますが、0.5か月分は単身の場合だと5万~8万円程度でしょう。
それを考えると、手持ち金が保護基準額の半分に減るまでは、家財道具や電化製品で足りない物を買ったり、買い替え・修理したりしておくほうが得策です。家財道具や電化製品の購入費用は、本当に最低限の物がないときや、新しい住居に住むときに一定額が出るのを除いて、生活保護で支給されないからです。いろいろな物が壊れたり傷んだりしても、修理や買い替えの費用の別途支給はなく、保護費の中からをやりくりするしかありません。実際に生活に困っている人は、そんなことを考える余裕のない場合が大半でしょうが……。

生活再建をかえって妨げないか
手持ち金の実務上の線引きに対しては、ほとんど丸裸にならないと保護を受けられず、厳しすぎるという意見があります。保護を受けていない段階では、公的な保険料や医療費、水道代などの負担がかかります。生活費以外のお金が乏しいと、就職活動のための交通費や衣服代を出せない、医療にかかりにくいといった状況が続き、生活力が弱って精神的も追い込まれがちです。弱ってから保護するのでは、生活再建がむずかしくなるのではないか、ということです。
保護を受け始めてからも、手持ち金が乏しいと、生活の向上や自立に向けた活動の余裕がなく、かえって保護からの脱却を妨げるのではないか、という指摘があります。
2004年12月に出された「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書」は、破産法の規定を参考に、手持ち金の保有限度額を3か月程度まで認めるべきだという多数意見を示しました。しかし、一般世帯とのバランス、国民感情、財政負担などを理由に反対する意見もあったことから、厚労省は保有限度額を拡大していません(むしろ反対に、保護基準を下げています)。
他の先進国の公的扶助制度では、これほど厳しい資産基準は設定されていないようです。手持ち金がほぼ完全になくなってから保護するという考え方は、見直すべきだと筆者は思います。

保護費のやりくりで貯蓄するのは問題ない
保護を受けてから、保護費をやりくりして貯蓄するのは、認められるのでしょうか。
保護費の使い道は基本的に自由です。生活の維持向上や自立に向けた貯蓄は問題ありません。
かつては、保護費を切りつめた貯蓄でも、資産と解釈して高額なら収入認定するという運用があったのですが、加藤訴訟秋田地裁判決(1993年4月23日、高齢の障害者が将来の介護費用として約80万円をためていた)、中嶋訴訟最高裁判決(2004年3月16日、子どもの高校進学のため満期保険金50万円の学資保険に加入していた)――を経て、運用が変わりました。
中嶋訴訟で最高裁は「生活保護法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品等を原資としてされた貯蓄等は,収入認定の対象とすべき資産には当たらない」と判断したのです。
この裁判の影響もあって、高校・高専レベルの学校の就学費用は、2005年度から生業扶助として生活保護から出るようになりました。
しかし、子どもの塾代や大学の進学費用は出ません。家財道具や電化製品の修理・買い替え費用、結婚費用も出ないのが現状です。あまりにも切りつめた生活をするのは問題ですが、やりくりによる貯蓄を認めるのは当然でしょう。
なお、住宅が傷んだときの修理費、資格や技能の習得費、就労活動費、就職支度費、出産費、葬祭費は、一定の範囲で生活保護から支給されます。

生命保険、学資保険の扱い
保護を申請したときに、解約返戻金のある生命保険に加入していると、資産として解約を求められるのが原則です。ただし返戻金が少額で、保険料も高くないときは、保険金や返戻金を受け取ったときに保護費を返還するという条件つきで、保護を受ける方法が認められています。目安としては、返戻金の額が、医療扶助を除いた保護基準額の3か月分程度、保険料が、医療扶助を除いた保護基準額の1割程度以下とされています。
このほか、厚労省の見解は示されていないのですが、近いうちに亡くなるか重い障害になる病人がいて、やがて保険金が出る見込みのとき、入院特約があって入院の見込みがあるとき、年金特約があって年金給付が近く始まるときなどは、加入の継続を認めるべきではないでしょうか。福祉事務所が認めない場合は、法律家に相談して交渉してみるとよいでしょう。
学資保険は、保護を申請する時点で加入している場合、解約返戻金が50万円以下なら、保有したたま保護を開始してよいという解釈を厚労省は示しています。先に述べた中嶋訴訟の事例にぴったり合わせた金額です。
ただし保護を受けてから加入した場合と違い、満期でお金を受け取ったら原則として、申請時の解約返戻金に相当する額を返還するよう求められます。学費がどんどん高くなった中、大学などに進学するために入った学資保険でも、もともと保有していた分を没収されるとしたら、自立を助長するという生活保護の目的に反する気がするのですが、どうでしょうか。(読売新聞大阪本社編集委員 原昌平)