しつけと「虐待」の線引きはどこ?

R25 2016年3月18日

「帰ったら(虐待を)やろうね」と日頃からLINEでやり取りし、3歳の娘を虐待死に追いやった母親とその恋人。園児に無理やり大量のワサビを塗りつけた唐揚げを食べさせた保育士。生後2カ月の息子の泣き声にイラついて暴行死させた22歳の父親…。
耳をふさぎたくなるような虐待事件の報道が、年明けから相次いでいる。なぜ加害者である大人たちは、か弱い幼子にそんな残忍な行為ができるのか? 彼らはある日突然、虐待を始めてしまうのだろうか?
社会福祉士、精神保健福祉士、学校心理士などの資格を持ち、児童虐待の現場に詳しい亀田秀子さんに話を聞いた。

虐待が起こる理由
「虐待はある日突然始まるものではありません。根底にあるのは保護者の育児不安・ストレス。それが解消されない状態が続いていくなかで、『泣き止まない』『反抗した』などの些細な出来事が引き金となり、怒りが生じて、暴言・暴力が引き起こされてしまうのです」(亀田さん 以下同)
だが育児にまつわる不安やストレスは、多かれ少なかれたいていの親は抱いているはず。そもそもどこまでが「しつけ」でどこからか「虐待」になるのだろう?
「その線引きは大変難しいものがありますが、あえて定義するなら子どもの立場に立って考えたときに、『子どもが心理的に苦痛を感じている、体に傷がついている』などは虐待といえるでしょう。また、子どもの心身の発達を阻害する行為も虐待にあたります」
言い方を変えると、「子どもが今まさに自力でできることを課題にする」ことが「しつけ」であり、「到底、頑張ってもできない理不尽な課題を与える」ことが「虐待」なのだという。

子どもを不潔にしておくことも虐待?
一方で、目に見える暴力ばかりが「虐待」ではないという。
「虐待には大きく4つの種類があります。殴る蹴るなどの『身体的虐待』、わいせつ行為を強要する『性的虐待』、暴言や罵声を浴びせる『心理的虐待』、そして『ネグレクト』。4種類の虐待のなかでも、もっとも判断に迷うのが、この“消極的な虐待”と呼ばれるネグレクトです」
ネグレクトとは「養育の放棄・怠慢」のこと。たとえば、食事を与えない、風呂に入れない、日常生活の世話を怠るなどもこのネグレクトに分類される。
「養育そのものはある程度なされているけれども、毎日同じ服を着せている、髪や体を不潔なままにしている、連絡帳に目を通している様子がない、子どもの問題行動に他人のような態度を示すなど、気配りでバランスを欠いている状態。これがネグレクトです」
そのほか、病気にかかっても病院へ連れて行かない。子を家に置いてたびたび外出する。これらの行為もすべてネグレクト=虐待にあたる。これらは家庭の経済力や親の教育レベルとも関連が大きいといわれている。
しつけと虐待の線引きはとても曖昧だ。けれど何かのきっかけで不幸や不運が重なれば、誰だってその境界線をふっと越えてしまう日が来るかもしれない。そうならないためにも、虐待としつけの違いはしっかり理解しておこう。
(阿部花恵+ノオト)

「保育園落ちた」ブログ余波 与野党、保育士給与引き上げ合戦の様相

産経新聞 2016年3月18日

「保育園落ちた」との匿名ブログをきっかけに与野党が待機児童問題に関する対策づくりを急いでいる。だが、その中身は、保育士不足の解消を目指した保育士給与の増額合戦の様相に。特に大盤振る舞いの野党は夏の参院選に向けてアピールする狙いだが、「財源の裏付けなきバラマキ」との批判を浴びそうだ。
自民党は18日、待機児童問題をめぐる緊急対策特命チームの初会合を党本部で開いた。ヒアリングに出席した保育関係者は「保育士給与を月額10万円程度引き上げれば保育士不足は解消する」と説明した。公明党も同日、対策チームの会合を国会内で開いた。
保育士の月給は約22万円で全職種平均より約11万円低く、離職率が高い。与党は来週後半にも保育士の処遇改善策を盛り込んだ緊急対策をまとめる。具体的には社会保障・税一体改革で予定されていた2%分の給与引き上げを検討しているが、1人月4千~5千円の引き上げにとどまる。
一方、民主、維新両党は18日の政策調整会議で、今国会に提出する「保育士処遇改善法案」の柱となる保育士給与の引き上げ幅を月額5万円とすることを確認した。月額1万円アップの方針だったが、増額した。財源は公共事業削減などで捻出する。おおさか維新の会も5年で月額9万円引き上げる対策をまとめた。
こうした野党の大盤振る舞いぶりに対し、自民党幹部は「政府・与党は財源を確保する責任がある」と皮肉った。

住宅ローンによる生活破綻者増加…身の丈に合わない家購入は危険

Business Journal 2016年3月19日

最近、「中年破綻」や「老後破綻」といったキーワードが目につくようになった。そして、もはや経済的な困窮は大人だけにとどまらない。
厚労省の国民生活基礎調査によると、18歳未満の子どもの貧困率は、1985年に10.9%だったものが、2012年に過去最悪の16.3%。つまりおよそ6人に1人が貧困という結果になっている。貧困率とは、世帯収入から国民一人ひとりの所得を試算して、順番に並べた場合の真ん中の所得の半分(貧困線)に届かない人の割合を指す。
今回の調査では、中央値は244万円、貧困線は122万円。つまり、毎月10万円程度で生活しているということであり、これは生活保護の水準を下回る。
ほかにも、非正規雇用や女性、ひとり親の貧困などが社会問題化しているが、安定した仕事と収入を持ち、普通に生活できていた家庭が破綻に追い込まれるケースもある。
一般的に生活が破綻する原因として考えられるのは、(1)病気、リストラ、介護などによる失職・収入減、(2)教育費負担の増加、(3)住宅ローン返済の3つである。なかでも、住宅ローン破産には要注意である。
日本弁護士連合会の調査によると、破産債務者が多重債務を負担するに至った理由として、「生活苦・低所得者」(60.24%)がもっとも多いが、08年の調査以降、「住宅購入」も増加傾向にある。14年の調査では、97年の調査以降の最大値を更新し、16.5%(前回12.24%)に跳ね上がった。おそらく、「失業・転職」(19.84%)や「給料の減少」(13.47%)等にともなって、住宅ローンが払えずに破綻せざるを得ない状況が深刻化しているようだ。
ただし、失業・転職、給料の減少と住宅購入の関係をみると、失業・転職が高止まりの状態で横ばい。給料の減少は減っているにもかかわらず、住宅ローン購入が急増している点に注意を払う必要がある。この結果はまさに、“身の丈に合わない”住宅ローンを組む人の多さを物語っているからだ。

安易な高額住宅ローン購入の危険
身の丈に合わない住宅ローンとは、返済能力以上に借り過ぎている人のこと。その背景には、史上最低水準といわれ続けている住宅ローン金利の低さや住宅ローン控除などの手厚い税制優遇、物件価格高騰等がある。住宅ローン金利の動きは以下の図表の通りだが、とくに変動金利の水準は低く、民間の住宅ローン利用者の半数程度が変動金利となっている。
物件価格についても、首都圏の場合、新築マンションの平均購入額は、05年は3893万円だったものが、14年には4340万円。この10年足らずで1.1倍と割高だ。
それに対して平均ローン借入額も、05年が2,965万円だったのに対して、14年は3539万円と増加。しかも、モデルルームの営業担当者や不動産広告の「頭金0円でも買えます」というセールストークを信じ、十分な自己資金を準備せずに、安易に高額な住宅ローンを組んでしまう。

マイナス金利
さらに今、この住宅ローンに大きな影響を与える政策が実施されている。今年1月29日の日銀政策決定会合で決定されたマイナス金利の導入だ。翌月2月16日、実務的にもマイナス金利の適用がスタートし、預金金利が引き下げられた。
マイナス金利政策が、私たちの生活にどんな影響を及ぼすのか国民の不安が広まるなか、住宅ローン金利と関係が深い長期金利が低下。大手メガバンク等では、固定金利型を中心に住宅ローン金利の引き下げを発表した。
まず三井住友銀行が、なんと月の半ば2月16日から10年固定を年0.9%に下げ、みずほ銀行もこれに追随。三菱東京UFJ銀行はさらに年0.8%にすると発表して、関係者は騒然となったが、その後すぐに三井住友信託銀行では0.5%にすると発表。この金利水準は、変動金利と変わらないかそれ以下である。
今のところ変動金利にはほぼ影響がないが、今後、各銀行の引き下げ競争の過熱がどこまで進むのか空恐ろしいほどだ。

家計破綻しないために
先日、ある地方銀行の住宅ローン担当者に伺うと、マイナス金利政策導入以降、とにかく「自分の住宅ローンはどうなるのだ」という問い合わせが殺到しているという。
今後、借換え需要も高まる可能性が高いが、とにかくこれから新規でマイホーム購入をお考えであれば、まず住宅ローンを組む場合、「借りられる金額」=「返せる金額」ではないことを肝に銘じておくこと。安心して借りられるお金というのは、実はそれほど多くないのだ。
また、住宅ローン残高を減らしたいからといって、ひんぱんに繰上げ返済する「繰上げ返済貧乏」にも要注意だ。住宅ローン返済中に、子どもの教育費や親の病気、介護などでお金が必要になることもある。ローン返済しながら貯蓄できるかどうかも安心できる住宅ローン返済の重要なポイントである。
そして、もしローン返済が難しくなったり滞りがちになったりした場合、早めに借入先に相談すること。返済方法や返済額の変更など、柔軟に対応してくれるはずだ。
そして、住宅ローンだけでなく、日頃から何か経済的に困窮した場合の公的制度やしくみ、セーフティネットに関する情報や知識を得ておくこと。それについて気軽に相談できる相談窓口を見つけておくことが、家計破綻しないためには必要不可欠である。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)