[顔]児童養護施設出身者の進学 「シェアハウス」で支援 庄司さん

読売新聞 2016年05月25日

児童養護施設を退所後に、大学や専門学校へ通う子ども向けのシェアハウスを4月に開設した。
施設には親からの虐待などを受けた子も多いが、原則18歳で退所しなければならない。「一人暮らしするお金がないため、進学率は低い。この子どもたちこそ学歴や資格が必要だ」
立教大などで家族や子育てを研究してきた。施設出身者から「進学できなかった」「安定した職に就けない」と聞き、「支援しなければ」との思いが募った。
所有する東京都内の古い空き家の活用を思い立ち、研究だけでなく支援を実践しようと決心した。私費を投じて個室5部屋に改装し、運営するNPO法人「学生支援ハウスようこそ」を設立。夜はスタッフが泊まる。家賃は朝夕食付きで5万円と割安に設定した。寄付も募りながら運営する。
現在女子3人が暮らす。自分もスタッフも「さん」付けで呼んでもらう。「『先生』だと息が詰まりますから」と気さくに笑う。
「家族には恵まれなかったかもしれないが、『見守ってくれる大人がいる』という安心感を持って巣立ってほしい」。研究者とは別の、親のまなざしで見守る。(生活部 吉田尚大)

全世界で旅行者による子どもへの性的虐待が深刻化、報告書

AFPBB News 2016年05月13日

観光客や旅行者による子どもへの性的虐待は、防止に向けた過去20年間の取り組みの裏をかくように全世界で深刻化しているとする報告書が12日、タイ、南アフリカ、米首都ワシントン(Washington D.C.)で発表された。吐き気を催すような記載もあるこの画期的な報告書をまとめた調査チームは「こうした犯罪が起きていない地域はなく、責任を免れる国もない」と結論付けている。
国連(UN)の支援を受けて作成された報告書「Global Study on Sexual Exploitation of Children in Travel and Tourism (旅行や観光による子どもの性的搾取に関する世界調査)」は、児童福祉当局や慈善団体、研究機関など70以上の専門家が参加して作成され、この分野の報告書としては最も包括的な調査が行われている。
報告書の執筆者らは、性的虐待が容易に行えるようになりこの問題をまん延させた要因として、格安の旅行手段と性的虐待者間の情報共有を可能にした最新テクノロジーの2つを挙げた。一般の人々や警察の児童買春を目的とするツアーについての認識は時代遅れになっていることが多いという。
児童性的虐待者の中で「欧米の裕福な中年の白人男性」はもはや典型的なタイプではなく、その多くは自らを常習的な小児愛者だとは認識していないとみられるという。
東南アジアでの被害者は、日本や中国、韓国からの観光客など、地元や比較的近い地域からの旅行者のターゲットとなる場合が多い。その主な理由は、東南アジア各地を旅行する人はこうした地域から来た人が圧倒的に多いからだという。
しかし、複数の児童保護団体は、東南アジアでは欧米に比べて政府が協力的ではないと指摘している。児童虐待について調査しているカンボジアの団体APLEの代表者は、中国人が絡むケースを多数調査したが、中国当局が捜査や自国民の起訴に踏み切ったケースは一件もないと語った。近隣諸国の政府や法施行機関の多くも同様だという。
かつて児童買春を目的とした観光客の出身地として知られていた欧州は、現在ではこうした旅行の目的地の一つとなっている。特に、児童保護法制が整備されていない中東欧の一部の国でその傾向が強い。
また、性的搾取者らが遠隔地で虐待に及ぶケースが増加している。研究チームは、未確認ながらミャンマーやラオス、モルドバ、ペルー、太平洋の一部の島しょ国で性的虐待のため買われる子どもが増えているという情報があるとしている。(c)AFP/Aidan JONES

「一人怖がる」「眠れない」…熊本地震後、子供の異変相談120件超

読売新聞(ヨミドクター) 2016年5月24日

熊本地震の発生後、熊本県内3か所の児童相談所(児相)に子供の体調や言動に異変を感じた保護者から、120件を超える相談が寄せられていることがわかった。
「一人でいるのを怖がるようになった」「眠れなくなった」といった相談が目立ち、戸惑う保護者が多いという。各児相は「心の傷によって体や言動に様々な変化が出るのは自然な反応。スキンシップを図るなどして子供に安心感を与えてほしい」と呼びかけている
県中央児相(熊本市)には、5月22日までに47件が寄せられた。同様の相談が約30件だった昨年1年間の件数を、地震から1か月余りで上回った。熊本市児相には68件、八代児相(八代市)には7件が寄せられ、3児相で計122件に上る。
3児相では子育て中の被災者から電話相談を受け付けており、臨床心理士の資格を持つ職員らが応対している。相談者の大半は、幼児や小学校低学年の子供を育てる母親。「腹痛や吐き気」「怖い夢を見て眠れない」「一人でいるのを怖がり親から離れたがらない」などの相談が目立つという。
県中央児相で相談に応じている西田稔さん(42)は「体や言動の変化は不安な気持ちの表れ。親は特別なことをしようと気負わず、落ち着いて受け止めることが大切」と話す。
そのうえで、西田さんは〈1〉話をしっかり聞いて共感する〈2〉スキンシップを増やす〈3〉あいさつを交わし、家族でご飯を食べるなど地震前の日常を少しずつ取り戻す――などを心がけて子供と接するよう呼び掛ける。子供に安心感を与える効果が期待できるという。

【熊本地震】児童養護施設の子どもたちが避難所でボランティア 活動の感想は

福祉新聞 2016年5月23日

熊本市の(福)慈愛園(内村公春理事長)が運営する児童養護施設の子どもたちは、4月に熊本地震が起きてから、避難所でボランティアを行った。18日から地域の小学校に避難する住民に物資を配給。困りごとの聞き取りもし、多くの人に「ありがとう」と声を掛けられたという。そうした体験で生まれた子どもの気持ちの変化とは。
児童養護施設「慈愛園子供ホーム」には、2歳から高校生まで70人ほどが暮らす。14日や16日の地震後は、全員が敷地内の運動場に避難し、毛布にくるまりながら一夜を明かすことになった。
幸いにも慈愛園の建物に大きな損傷はなく人的被害もなし。水道は井戸水で、プロパンガスを使用していたため、ライフラインに問題は起きなかった。
食料の備蓄は3日分ほど。緒方健一・同園長も不安を抱えていたところ、かつて園から巣立った人たちが次々と連絡してきたという。
最初に物資を送ってきたのは、現在は沖縄で料理人をしている20代男性。17日から2回に分け、カップ麺450食を送ってきた。また同じく20代女性がツイッターで慈愛園の状況を訴えたところ、全国から食材や紙オムツなどが届いた。結局、匿名も含めて、物資の提供は100件を超えるほどになった。
地震で混乱していた17日夜、慈愛園では夕食に園出身者が送ってきたカップ麺を提供した。しかし、その際、子どもたちからは「ご飯はこれだけなの」「テレビも特番ばかりでつまらない」などと不満の声が聞こえてきた。そこで、緒方園長は18日朝、全員を運動場に集めてこう話したという。
「今、地域には地震で十分に食べ物がない人もいる。我々を心配して物資を送ってくれた先輩方には感謝してほしい。こういう時だからこそ、我々ができることをやろう」。
この呼び掛けに約半数の子どもたちが応じた。市内の学校が休校だったこともあり、18日から地域の避難所である小学校で活動を開始。15人の中高生は、お湯、おにぎり、みそ汁などを直接手渡したという。
さらに、避難者一人ひとりを回り、何か困ったことがないか聞き取りも実施。「夜は寒い」「生理用品がほしい」「ラジオで情報が知りたい」などの声が集まり、解決に向けて動いた。
活動は、地震直後で一番混乱していた18~20日に集中的に行った。また、ゴールデンウィーク中にも2回活動。同園主任児童指導員の田中一幸さんは「最初は不安そうな子もいたが、そのうち態度も変わった。日頃見せない子どもの潜在能力の高さを見せつけられた」と話した。
そうした活動について、慈愛園の子どもたちが文章にしている。
人見知りだった中3女子は、活動するうちに知らない人とも話せるようになった。「人のことを考えずに生活してきたが、周りの人のことを考えられるようになった」と振り返る。
また中1男子は、物資を届けた際、皆が「ありがとう」と笑顔だったことが忘れられず、「日頃できない体験をして、人の役に立つことがどんなにいいことか分かった」と感じた。
避難所を回った高1男子も「サポートするうちに避難者の間に笑顔が生まれてうれしかった」。「人間同士が支え合って生きる重大さを知った。これから自信を持ち、いろいろな活動へ積極的に参加したい」と意欲を示す。
さらに中2女子は、子どもからお年寄りまで多くの人に感謝され、泣きそうになったという。その経験を踏まえ、「将来こういうこと(仕事)をもっとしたい」と決意した。
緒方園長は「震災という恐怖と不安を跳ね返す貴重な活動だった」と指摘する。「何かを受ける側ではなく与える側となり、さらに必要とされる経験は、きっと将来の糧となる。子どもたちと共に、熊本の復興に向けて努力していきたい」と話している。