児童虐待防止へ支援拠点=食事、衛生面で定期指導―厚労省方針

時事通信 2016年7月21日

厚生労働省は、子どもの養育に問題を抱える家庭を支援する拠点の整備を進めるため、市町村に関連経費を助成する方針を固めた。
支援拠点は、児童相談所(児相)が虐待を受けた子どもを一時保護するケースには至らないものの、家庭訪問で食事や衛生面の定期的な指導が必要なケースなどに対応し、虐待の深刻化を防ぐ。2017年度予算概算要求に職員の人件費などを盛り込む考えだ。
拠点整備への助成はプライバシーが確保できる相談スペースの整備や、児童福祉司ら専門職員の配置などを要件とする方針だ。複数の市町村による共同設置も認める。
都道府県や政令指定都市が設置する児相は子どもを親から一定期間引き離す一時保護を決定し、保護施設への入所手続きを行うことができる。ただ、対象となるケースは、暴力で子どもが危険にさらされるといった緊急性の高い場合などに限られる。

子供の自殺のサイン見逃さない…長期休暇明けに増加

読売新聞(ヨミウリオンライン) 2016年7月22日

相談しやすい環境に
夏休みが楽しみな子どもの中にも、学校関係で思い悩み、休み明けに自殺を選ぶケースがある。
最悪の結果を招かないために、家が子どもにとって居心地よい場所か、悩みを相談してくる親子関係にあるかなどを、比較的時間がある夏の間に見つめ直したい。
関東地方の40代の女性会社員は以前、当時中学1年の長男が通う学校の教諭から、「息子さんが学校でカッターナイフを持ち歩いているのを見た。自傷の恐れがある」と連絡を受けた。
女性は、長男が学校を休みがちになった時に声をかけたりしたものの、「それほど追い込まれているとは思いもしなかった」と話す。学校側と話し合って危機を脱したが、長男は当時を「お母さんは忙しいから、どう話せばいいか分からなかった」と振り返る。
厚生労働省によると、2015年に自殺した児童生徒は、小学生6人、中学生102人、高校生241人だった。中学生は1998年以来17年ぶりに100人を超えた。
また、2015年版自殺対策白書によると、1972~2013年の42年間の18歳以下の自殺者を日付別にまとめたところ、9月1日が131人で最多だった。春休み明けや大型連休明けも100人近い日があり、長期休暇が終わった直後の自殺が目立つ。
文部科学省の「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」メンバーで、スクールカウンセラーの阪中順子さんは「思春期の子が感じる強いストレスが内に向けば、不登校や引き籠もりにつながることがある。ストレスが極限に至ると、自殺という形で表れかねない」と注意を促す。
特に、長期休み明けは生活環境が大きく変わる。学校をストレスに感じる子には、そこに戻ることのプレッシャーや精神的動揺が強く、自殺につながりやすいとみられる。
自殺を防ぐには、親はまず、子どもが発するサインに気付きたい=イラスト=。さらに阪中さんは、「子どもが家族の輪に加わらなかったり、自室に籠もったりしても非難せず、家が安心できる居場所だと示してほしい」と説く。
安心すると、子どもは閉ざした心を緩ませて話しかけてくることがある。その際、「詮索はせず、『へえー』と聞き役に徹して」と阪中さん。「『お父さんお母さんは自分を理解しようとしてくれている』と感じ、親を信頼することにつながります」
ただ、悩みを親に相談しづらい子どももいる。文科省の会議の座長で精神科医の高橋祥友さんによると、そうした子は親友に打ち明けることがあるが、子ども同士では解決策が出にくい。「相談した側は『死ぬしかない』と思い込む。相談された側も相手を一人にできず、『一緒に死のう』という発想を抱きかねない」と指摘する。
こうした事態を避けるため、「日頃から『大人に相談することが大事』と繰り返し伝えて」と高橋さん。担任教諭や養護教諭、スクールカウンセラー、親戚、近所の人など、親以外にも周囲に大人が大勢いると教えておくのだ。
電話で相談できる窓口もある。阪中さんは「悩んだ際の相談先一覧を家の中に貼っておくのも一つの手。当人が電話するきっかけになるかもしれない」と助言する。

子どもの自殺予防の主な無料相談先
・文科省「24時間子供SOSダイヤル」((電)0120・0・78310、毎日24時間対応) 掛けた人の所在地から都道府県の連携機関につながる。臨床心理士、教員OB、精神保健福祉士らが相談に応じる。大人が相談してもよい
・NPO法人チャイルドライン支援センター「チャイルドライン」((電)0120・99・7777、月~土曜の午後4~9時) 18歳以下対象。一定の研修を受けたボランティアが相談に応じる

【社会福祉法人】15年度の収益4億円以下 評議員数の経過措置対象示す

福祉新聞 2016年7月19日

厚生労働省は8日、2017年4月1日施行の社会福祉法人改革をめぐる経営組織の検討事項について、都道府県などの担当者を集めた説明会で現時点の考え方を明らかにした。評議員数の経過措置対象は、15年度の年間収益が4億円以下の法人とする方針。全法人の7割がこれに該当する。その他の検討事項と併せて今年10月に政令、省令を定める。施行日までの時間が短いため、異例の経過報告会となった。
新評議員会は定款変更、理事・監事の選任や解任を決める議決機関で、従来の諮問機関とは性格が異なる。現在の評議員の任期は17年3月31日まで。理事会が中立的な選定委員会を設け、同委員会が新評議員を選ぶ。
評議員会を設置していない法人は現在、全体(2万法人)の45%だが、17年4月からは全法人に必ず置くこととなった。評議員数は7人以上となったが、小規模法人は施行後3年間は4人以上でも良い。
この経過措置について厚労省は当初、1施設のみ運営する法人とする予定だったが、年間収益で線引きする考えに改めた。年間収益を2億円以下(全法人の半数)とする案が浮上したが、厚労省はさらに広い4億円以下とする方針だ。
法人側からはかねて「評議員の確保が難しい」とする声があり、厚労省は円滑に確保できるよう配慮する考えだ。例えば、ある法人の評議員が別の法人の評議員を人数制限なく兼務できるとした。法人の元職員が評議員になることも可能で、退職後1年程度経過した人が望ましいとした。
また、全国社会福祉協議会は4日、都道府県・指定都市社協事務局長宛てに、法人の評議員確保を積極的に支援するよう文書で呼び掛けた。法人からの要請があれば、市区町村社協がNPO活動者など地域の人材を紹介することを例示した。
法人改革をめぐっては今年3月31日に改正社会福祉法が成立。政令、省令で定める事項は4月から社会保障審議会福祉部会で議論を始め、まだ結論は出ていない。
厚労省は法人側の準備が後手に回ることを避けるため、途中経過を6月20日に都道府県などに事務連絡し、その上で今回の説明会を開いた。「法人改革は実質的に初めての経験で、周知が行き届いていない」(田中徹・厚労省社会福祉法人制度改革推進室長)との認識が背景にある。
同日の説明会では、法人の定款例の案も提示。また、いわゆる余裕財産のある法人は社会福祉充実計画の策定が義務になるが、余裕財産を弾き出す計算式の公表は今秋になり、改めて説明会を開くとした。
法人改革をめぐるQ&Aなどを含め、説明会で配布された資料は厚労省ホームページからダウンロードできる。

貧困と生活保護…ケースワーカーの数と質が足りない

読売新聞(ヨミドクター) 2016年7月22日

生活保護は国が責任を持つ制度ですが、実際に運用するのは自治体が設けている福祉事務所です。福祉事務所には、保護世帯を担当するケースワーカー(法律上の名称は現業員、略称CW)がたいてい地区割りで配置され、それを指導監督する査察指導員(通常は係長級、略称SV)がいます。行政上の決定権限を持つのは、全体の責任者である所長です。ほかに事務職員、就労支援員などがいます。
そうした人員配置を「保護の実施体制」と呼びます。生活の維持・再建に必要な支援を行うためにも、いろいろな不正を防止するためにも、しっかりした実施体制を整えることが欠かせません。
ところが、現実の実施体制を見ると、以下に述べるように3つの大きな問題があります。これらの改善を抜きにして、生活保護行政を的確に進めることはできないでしょう。

多すぎる担当ケース数、専門性の不足、非正規の増加
第1に、ケースワーカーの数が足りない自治体が、都市部を中心にかなりあることです。社会福祉法で示された標準数(都市部の場合、1人あたり80世帯)を大幅に超えて、120、130といった多数の世帯を担当しているケースワーカーもまれではありません。当然、非常に忙しくなり、計算や書類作成など事務仕事にも追われて、担当世帯へのていねいな支援がむずかしくなります。
第2に、ケースワーカーや査察指導員の専門性(質)です。福祉職の枠で採用した職員で福祉の職場を切り回すという人事方針の自治体はわずかです。大半の自治体は、ほかの部門と同様に行政職の職員を人事異動で福祉事務所に配置し、3年ぐらいで別の職場へ異動させています。その結果、社会福祉の基本的な考え方や対人援助の姿勢が身についていない職員、知識や経験の足りない職員が多くなりがちです。つまり、たいていの自治体で、福祉事務所の職員は福祉の専門家と言えないのが現状なのです(もちろん、まじめに努力している職員はいるし、経験豊富なケースワーカーも一部にいます)。
第3に、非正規化の進行です。公務員定数の抑制・削減が進められる中、福祉行政の需要が増えても簡単に人を増やせないという理由で、任期付き、嘱託、アルバイトといった非正規のケースワーカーを置く自治体が、とくにリーマンショック(2008年9月)の後から増えました。正規と非正規の待遇の格差は大きく、経験の蓄積、意欲、チームワーク、創意工夫などの面でも影響を及ぼします。

強制力のない職員配置の標準数
最初に福祉事務所とは何か、制度の基本を確認しておきましょう。社会福祉法にもとづき、福祉事務所を設置する義務があるのは、すべての市、東京の特別区、都道府県です。政令市は通常、区ごとに福祉事務所を設けており、一部の市や東京の特別区は複数の福祉事務所を置いていることがあります。町村の場合に福祉事務所を設置するかどうかは任意で、設けている町村はわずかです。それ以外の郡部(町村部)を、都道府県が設置した福祉事務所がカバーします。
市町村・特別区の福祉事務所の場合、生活保護法だけでなく児童福祉法、母子父子寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法も担当します。ただし実際に「福祉事務所」という看板がかかっていることはまれです。法律上の福祉事務所は形式上のものになり、分野ごとの課に分かれているのが一般的だからです。生活保護の部門は、保護課、生活援護課、生活福祉課といった名称が多くなっています。
さて、社会福祉法16条は、ケースワーカー配置の標準数を、生活保護世帯数に応じて、次のように定めています。

市・特別区が設置する福祉事務所   80世帯あたり1人(最低でも3人)
町村が設置する福祉事務所      80世帯あたり1人(最低でも2人)
都道府県が設置する郡部の福祉事務所 65世帯あたり1人(最低でも6人)

受け持ちケース数が80というのは、学校のクラスをイメージして、教師1人がどれぐらいの人数の状況を把握できるかを想像すれば、意味がわかりやすいでしょう。郡部の担当ケース数が少なめなのは、地理的な広さを考えたものと思われます。
これらの数字は、かつては法律上の最低基準で、ほぼ守られていたのですが、2000年度から実施された地方分権の際、標準数(目安)に変わり、自治体に対する強制力がなくなりました。この地方分権で自治体が行う生活保護関係の業務は、かつての機関委任事務から、法定受託事務に変わりました(相談・助言は自治体本来の自治事務)。国と自治体、都道府県と市町村の関係も「指揮監督」という上下関係ではなくなり、意見を伝える場合は「技術的助言」などの形になりました。
国による規制が緩くなったわけです。すると、その後、標準の配置数を満たさない自治体が増えました。背景には生活保護世帯の急増と、各自治体の公務員定数の削減があります。
自治体の生活保護担当幹部に尋ねると「標準数を満たすように増やしたいけれど、人事部門や財政部門がウンと言ってくれない」と嘆いていることが多いのですが、なかには標準数とかけ離れた独自の配置基準にしている自治体もあります。極端なのが大阪市で、高齢者世帯に関しては380世帯につきケースワーカー1人という配置基準です。
なお、査察指導員の数は法律上の定めがありませんが、1951年の社会福祉事業法(当時)の施行に関する通知によって、ケースワーカー7人につき1人が標準数とされています。

09年を最後に行われていない福祉事務所現況調査
厚生労働省はかつて、事務監査資料という名称で、全国の福祉事務所の実施体制を毎年まとめていました。現在は「 福祉事務所現況調査 」という統計調査を行い、毎年10月1日時点の状況を調べることになっています。けれども、この調査が行われたのは04年と09年。最後の09年の調査から7年近くたつのに、次の調査の予定さえ決まっていません。
保護の実施体制にはたくさんの課題があるのに、なぜきちんと調べないのか。担当する社会・援護局総務課に尋ねると「基本情報として必要と思っているが、自治体の事務負担もあるので……。実施については検討する」とあいまいな答えです。各自治体が職員配置などの状況を報告するのが大変な作業とは思えません。他方で厚労省は、すべての生活保護世帯の状況を報告させる「被保護者調査」という膨大な集計を毎年、自治体にやらせているのです。率直に言って、厚労省の手抜きだと思います。

標準数より、はるかに少ない配置の自治体も
というわけで、実施体制に関する公的なデータは09年時点の福祉事務所現況調査しかありません。調査年が少し古く、リーマンショック後の不況・生活保護の増加への対応がほとんど反映されていない時期のものですが、あらましを紹介しましょう。
この時点の福祉事務所の数は、全国で1242か所(市・特別区989、町村27、郡部226)でした。生活保護を担当するケースワーカーの総数は1万3881人で、標準数に対する充足率は全国平均で89.2%。標準数を満たさない福祉事務所が414か所ありました。
都道府県が設置する郡部の福祉事務所の充足率が平均で100.7%なのに比べ、市部(特別区、町村を含む)は平均88.2%にとどまり、政令市は平均80.1%、中核市は平均81.1%と低くなっています。実際には自治体によって、かなりの差があります。政令市・中核市で当時、標準数に対する充足率が75%を割っていたのは次の市でした。
東大阪市54.1%、大阪市61.0%、岐阜市65.9%、姫路市66.0%、高知市68.0%、名古屋市68.6%、宇都宮市69.0%、盛岡市69.4%、尼崎市70.5%、奈良市71.7%、豊橋市72.2%、高松市73.1%、西宮市73.6%
政令市・中核市を除く市部の平均では、大阪府が73.8%と低い充足率です。郡部の福祉事務所では、山梨県が14.7%(標準数34人に対し現員5人)と極端な低さです。厚労省の集計表に出ていない一般の市や特別区でも充足率の低いところがあったかもしれません(すべて公的体制の情報なのだから、本来、福祉事務所ごとの詳しいデータまで公表すべきです)。
一方、以下のように、充足率が100%前後の政令市・中核市もあります。大きな市でも、市全体としてやろうと思えば、きちんと配置できることを示しています。
下関市110.3%、いわき市105.7%、福山市105.4%、京都市101.7%、倉敷市100.0%、北九州市98.8%、川崎市98.7%

経験の浅いケースワーカー、現業経験のない査察指導員
経験はどうでしょうか。09年の福祉事務所現況調査によると、全国平均で見たケースワーカーの経験年数は、1年未満(つまり新人)が25.4%、1年以上3年未満が37.9%、3年以上5年未満が20.8%、5年以上は15.9%でした。経験3年未満のケースワーカーが全体の6割以上を占めます。市によっては9割以上が経験3年未満でした(たとえば長野市、岡崎市、郡山市)。
生活保護担当の査察指導員の総数は2596人。そのうちケースワーカー経験のある人は全国平均で78.3%です。裏を返すと査察指導員の21.7%は、現業経験なしでケースワーカーを指導しているわけです。この時点で、姫路市の査察指導員は6人とも現業経験なしでした。

社会福祉主事の資格さえ、4分の1が持たない違法状態
専門性はどうでしょうか。09年の福祉事務所現況調査では、資格の取得状況は以下の通りです。

主な資格の保有率(09年10月1日時点)
社会福祉主事   社会福祉士   精神保健福祉士
査察指導員    74.6%    3.1%      0.3%
ケースワーカー  74.2%    4.6%      0.5%

社会福祉主事は、公務員として福祉系の業務にあたるときの職名です。社会福祉法15条は、査察指導員、ケースワーカーについて「社会福祉主事でなければならない」と定めています。ところが、査察指導員、ケースワーカーのそれぞれ4分の1ぐらいは、その任用資格さえ持っておらず、法律に違反した状態になっているのです。
社会福祉主事に任用されるには、社会福祉士・精神保健福祉士であるか、通信教育を含めて厚労省指定の養成機関(学校)または講習会を修了するか、社会福祉事業従事者試験(現在は実施されていない)に合格するか、一つの大学・短大で社会福祉に関する単位を3科目以上取って卒業するかです。このうち3科目の単位取得(いわゆる3科目主事)は、社会福祉概論や公的扶助論といった科目だけでなく、法学、社会学、経済学、心理学、教育学、倫理学、医学一般など幅広い科目が対象になっており、文系の教養的な単位を3つ取って大学を卒業しただけでも、たいてい任用資格を得られます。それで福祉を学んだとは、とうてい言えません。
社会福祉主事の制度は、大学卒業者が珍しかった時代なら意味があったでしょうが、もはや時代遅れだと思います。ソーシャルワーカーの国家資格である社会福祉士または精神保健福祉士の有資格者を大幅に増やし、基軸に据える方向に転換すべきだと考えます。中途採用の拡大や、通信教育による職員の資格取得を支援するといった方法もあります。国家資格があるだけで生活保護を適切に実施できるとは限りませんが、福祉を学んだことのない行政職員が、わずかな研修とマニュアル、先輩からの口伝えなどで、専門性の必要な対人援助業務にあたることの多い現状は、ヘンだと思うのです。

総務省も、実施体制の不備を指摘
部分的でも、もう少し新しいデータはないものか。総務省行政評価局は、14年8月に公表した「 生活保護に関する実態調査 」の中で、実施体制の問題を指摘しています。行政評価局が12年4月時点で102の福祉事務所の体制を独自に調べた結果、ケースワーカーの標準数合計に対する充足率は80.9%。標準数未満の福祉事務所が67か所あり、うち6か所は充足率が50%以下でした。
査察指導員430人のうち77人(17.9%)は社会福祉主事の資格なし。無資格の査察指導員がいる福祉事務所が22か所あり、うち5か所は査察指導員の全員が無資格でした。ケースワーカーは2759人のうち575人(20.8%)が社会福祉主事の資格なし。無資格のケースワーカーがいる福祉事務所が68か所あり、最も無資格率の高かった所は75.3%でした。
厚労省の自立推進・指導監査室は、67ある都道府県・政令市にそれぞれ2年に1回のペースで生活保護行政の監査に出向いており、監査の時は、その管内にある福祉事務所にも1か所を選んで入ります。15年度は34の福祉事務所へ監査に入り、うち23か所で人員不足を指摘しました。
現在も、実施体制の状況は、あまり改善されているとは言えないようです。

自治体によって大きく異なる考え方
少し具体的に現場の状況を見ましょう。実施体制の実情や考え方は自治体ごとに違いがあります。対照的な例として、大阪市と横浜市を比べてみましょう。
大阪市は、00年度の地方分権と同時にケースワーカーの配置を独自基準に変えました。現在、65歳以上の高齢者だけの世帯は380対1(別に288対1の基準で嘱託の訪問員を配置)、60~64歳の準高齢世帯は140対1、それ以外の世帯は、やや厚めに70対1という基準です。
380世帯も担当すれば、名前さえ頭に入らないでしょう。経済的自立が見込めなくても困りごとや医療への対応は必要ではないかと思いますが、市保護課は「市の状況でケースワーカーを大幅に増やすのは困難。高齢者には介護保険の地域包括支援センターなどもあり、見守り中心にしている。マンションに多数住んでいる場合もある」としています。大阪市は、生活保護制度のあり方について「高齢者には、経済給付のみの生活保障制度を創設すべき」と提案したこともあります(12年7月)。高齢の保護世帯にケースワークはあまり必要ないという感覚がうかがえます。
16年5月時点のケースワーカーは997人で、標準数1444人に対する充足率は69.0%。査察指導員は177人です。特徴は、リーマンショック後の10年に導入した任期付きケースワーカーが212人と多いこと。任期は3年、更新しても最大5年。正規職員より各種資格の保有率が高いという逆転した実情があるのですが、経験を蓄積したころには任期切れになってしまいます。
15年4月時点の資格取得率は、ケースワーカーで社会福祉主事59.5%、社会福祉士22.1%。査察指導員は社会福祉主事26.1%、社会福祉士4.7%、現業未経験率24.0%でした。
一方、横浜市では、生活保護の実務にあたる職員はほぼ全員が福祉職の枠で採用され、社会福祉主事です。16年4月時点のケースワーカーは625人で、標準数に対する充足率は93.7%。うち376人(60.2%)が社会福祉士です。査察指導員は74人のうち24人(32.4%)が社会福祉士で、現業未経験率は10.8%。非正規のケースワーカーは産休・育休カバーの40人だけです。
基本的に、福祉専門の正規職員で体制を作っているわけです。市の保護課長は「福祉職採用なので、対人援助の基本が身についている。もう少し行政事務の効率性などの感覚がほしいと思うことはあるが、やさしさとともに正義感は強く、不正にはきちんと対処できる」と話しています。

丁寧な支援と不正防止には、体制が必要
厚労省は、居宅保護の世帯は年2回以上、入院・入所者には年1回以上の訪問調査を行い、それ以外でも必要に応じて訪問や面接を行うよう求めています。とはいえ、それは最低限のラインです。信頼関係を築いて、生活の実情をつかみ、ていねいな支援を行うには、本来なら月に1回ぐらい訪問か面接をしたほうがよいでしょう。
ケースワーカーには、保護費の計算や面接の記録などの事務作業もたくさんあります。しっかりしたケースワークには、それを可能にする体制が必要です。人手不足、経験・専門性の不足は、不正受給の見過ごしにもつながります。軽視してはならない課題です。