あの親たちは鬼畜ではない。殺された子は親を愛し、虐待した親も子を愛していた

週刊女性PRIME 2016年9月24日

鬼畜の所業。人間のすることとは思えない─。
5歳のわが子をアパートに放置し、7年後に発見された『厚木市幼児餓死白骨化事件』や、嬰児の遺体を天井裏や押し入れに隠した『下田市嬰児連続殺害事件』、そしてまだ記憶に新しい『足立区うさぎ用ケージ監禁虐待死事件』など、相次ぐ子どもの虐待死のニュースを聞くたびに、こう思った人は決して少なくないことでしょう。
ですが『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち』(新潮社)の著者・石井光太さんはこんなふうに語ります。
「あの親たちは鬼畜ではないですね。厚木市幼児餓死事件の理玖くんはエロ本をちぎって紙吹雪にして遊んでくれる父親のSが帰ってくるのを心待ちにしていましたし、うさぎ用ケージで殺された玲空斗くんの写真を見ると、実に楽しそうにしている。殺された子は親を愛していたし、虐待した親もまた、子どもを愛していました。ただ親たちの愛し方が、あまりにも“自分なり”だったんです」

彼は本心から虐待とは思っていない
厚木市幼児餓死事件でわが子、理玖くんを餓死させたS容疑者に会いに横浜拘置所に足を運んだ石井さんは、「(理玖くんの)身体もふいたし、遊ばせてもやった。2年以上(親として)やることはやったのに、なぜ、殺人と言われるのか!」と言い放つS容疑者の言葉に、呆然とします。
「電気もガスも水道も止められた真っ暗な中、部屋にたまった2トンものゴミに囲まれながら、S容疑者は息子と一緒に2年間も過ごしているんです。彼はその状態を本心から虐待とは思っていない。そんな人間に、“あれは事故だ!”と言われたら、われわれ第三者には返す言葉がない」
常識的には決して普通とはいえない生活に疑問を抱けないS容疑者。そんな常識からのズレは、かたちを変え、人物を変えて、本書の各事件に登場します。
そしてこうした常識とのズレから生じた“自分なりの愛し方”、すなわち、夏休みが終わり、あれほど可愛がっていたカブト虫を飽きて放置して死なせてしまう子どものような愛し方しかできない親たち──。
ここにこそ、続発する児童虐待死事件の根底があるのだと、本書は強く言うのです。
では、こうした歪んだかたちでしかわが子を愛せない親たちは、いったいどうして生まれてしまったのでしょうか?
「“反社会”でなく、“非社会”の人が増えてきているからだと思います」

非社会的な存在が親になり、虐待死につながっている
暴力団員や暴走族など、“反社会的”と言われる人たちは、これまでもずっと存在していたと石井さん。
ですが、彼らは彼らなりの人間関係の中でもまれることで、人とのつながり方を学びとることができていました。コミュニケーション能力はむしろ、熟練の域にあるとさえ言えたのです。
「ところが、今、圧倒的に増えてきている“非社会の人”というのは、“存在する場所が持てなかった”人たちです。生まれたときから存在を否定されて育ってきたから、人とのつながり方がわからない。だから誰かと仲よくしろと言っても仲よくするしかたがわからないし、子どもの愛し方もわからない。こうした非社会的な存在が親になり、虐待死につながっている。昔も子殺しはあったと思いますが、殺した理由は、20~30年前とは全然違うと思います」
その言葉どおり、本書で紹介されている親たちの生育歴には、慄然とさせられるものがあります。

虐待親たちもまた、虐待され続けてきた
重度の統合失調症を発症した母親のもと、父親からのケアもなく壊れていく母親を見つめ続け、嫌なことからは目をそらすしか自分を守るすべがなかったS容疑者の幼年期。
シングルマザーとなり、ファミレスで必死に稼いできたお金を実の母親に情け容赦なく取り上げられたすえ、中絶できる時期を逃し、2人の嬰児を殺害してしまった下田市嬰児連続殺害事件のT容疑者。
そして捨てるようにして乳児院や児童養護施設に預けられ、一時帰宅の際には貯めていた小遣いや児童手当を取り上げられていたという足立区うさぎ用ケージ監禁虐待死事件のM容疑者。
そこまで読み進めて初めて気がつくのです。
憤慨し、鬼畜の極みと感じていた虐待親たちもまた、虐待され続けてきた哀れな非社会的な子どもたちであり、親子のつながり方がわからず、“飽きたカブト虫を捨ててしまう子どものような愛し方”しかできなかったのだ、と。

児童相談所があるが『親相談所』はない
虐待が虐待を呼び、次の世代に連鎖して、最後には悲劇的な結末を伴って爆発するこの現実。日本小児科学会は子どもの虐待死の実数を1年におよそ350件と推計。
それを踏まえて、最後に石井さんが言います。
「子どもを救う場所として児童相談所がありますが、『親相談所』ってないんです。子どもを育てられない親って必ずいて、本人たちもそのことに苦しんでいます。
でも、それを公に相談したら、子どもは取り上げられてしまう。そんな親たちを責めるのでなく、“よく頑張ってここまで育ててきたね”と寄り添ってくれる場所があれば……。親も子どもたちも、きっと救われると思います」

社説[給付金と保護費]返還取り消しは当然だ

沖縄タイムス 2016年9月26日

B型肝炎訴訟で給付金を受け取った沖縄市の男性(62)に対し、過去にさかのぼって生活保護費の返還を求めた市と県の判断を、国が「誤り」として取り消した。
返還要求は病気の特徴や国の責任が追及された裁判和解の理解を欠くもので、取り消しは極めて常識的な決定だ。
男性は、幼いころに受けた集団予防接種の注射器使い回しが原因でB型肝炎ウイルスに感染した。
県内の訴訟団に加わり、2013年に和解が成立。ウイルスには感染しているが症状が現れていない無症候性キャリアとして50万円の給付金を受け取った。
その後、病状が悪化し慢性肝炎となり、14年に追加給付金1250万円を受け取っている。
男性が生活保護を受給したのは、追加給付金を受けるまでの半年間だ。
沖縄市は、この半年分の生活保護費の返還を求める処分を決定。男性は県に処分取り消しを求め審査請求したが棄却され、厚生労働省に再審査請求していた。
生活保護法63条は、資力があるにもかかわらず保護を受けた時は、保護費を返還しなければならないと定めている。
B型肝炎訴訟では、病態区分に応じて50万~3600万円を国が支払うことになっているが、病気の進行は事前に予測できるものではない。
この場合、資力が発生したのは追加給付金を受けた時とみるのが自然である。市や県が、キャリアだった時点の和解日にさかのぼり資力があったとするのは乱暴な解釈だ。

男性は同じ立場に置かれた人が、不利益を被らないよう声を上げたと言う。
倦怠(けんたい)感など慢性肝炎の症状を抱えながら、役所を相手に処分の取り消しを求めて審査請求した心労はいかばかりか。
生活保護を巡って、「保護たたき」ともいわれる現象が如実になったのは、人気お笑いタレントの母親が生活保護を受給していたと批判され騒動になった4年ほど前からである。
2年前に改正施行された生活保護法は、受給者を減らすことを一つの目的に、不正受給対策を強化し、申請手続きを厳格化するものだった。
今回、市が生活保護制度における資力の発生日を和解日とし、保護費の払いすぎを理由に返還を機械的に求めたのは、制度への厳しい目線と無関係ではない。

男性は現在、給付金を切り崩しながら、アルバイトで生活をつないでいる。
しかし給付金で生活できる期間は限られている。高齢や病気の進行で働くことが難しくなった場合、再び保護が必要となるかもしれない。
むしろ生活保護の問題は、その「入りにくさ」にある。 那覇市で保護世帯の子どもが借りた貸与型奨学金が「収入」とみなされ、保護費の返還を求める事案があったばかりだ。
一つ一つ事例ごとに保護を必要とする人たちの立場を理解し、積極的に援助していく姿勢こそ大切である。