<医療ケア必要な子>12市区保育所受け入れず 主要自治体

毎日新聞 2016年12月12日

たん吸引や栄養剤注入などの医療的ケア(医ケア)が必要な子どもについて、全国の主要自治体のうち少なくとも12市区が保育所に受け入れない方針でいることが毎日新聞の自治体アンケートで分かった。今年6月の児童福祉法改正で自治体に医ケア児支援強化の努力義務が課されたが、全国的に保育所の受け入れ準備は進んでいない。厚生労働省も各市町村の実態は「把握していない」という。
アンケートは10~11月、政令指定都市、道府県庁所在地、東京23区の計74自治体を対象に実施し、全自治体から回答を得た。
医ケア児を受け入れないと回答した12市区が挙げた理由は「看護師を配置できない」「安全確保が困難」「待機児童対策を優先している」など。背景には財政難や看護師・保育士確保の難しさがあるという。
札幌、岡山、鹿児島、那覇市は「私立が受け入れ可能であれば入所できるが、公立では受け入れていない」と回答した。医ケア児を受け入れていても、水戸、さいたま、名古屋、神戸、高松、高知、大分市では保護者が来所してケアする必要がある。「症状に応じて判断する」という自治体も多く、堺市や松山市などは「集団保育が可能と医師が判断した場合に限る」と条件を付けている。
調査対象の74自治体に比べ財政基盤が弱い中小自治体は、さらに対策が遅れている可能性が高く、医ケア児は障害者福祉の対象外となるケースも多い。厚労省は今年6月、医ケア児の保育ニーズを踏まえて対応するよう自治体に通知。13日には内閣府や文部科学省、自治体の担当者らによる会議を開き、医ケア児を地域で支える体制づくりについて話し合う。厚労省は医ケア児保育支援モデル事業を2017年度概算要求に盛り込み、自治体が看護師を雇う費用の半分を国が負担するとしている。
医ケア児の保育所入所を巡っては06年10月、たん吸引が必要であることを理由に受け入れを拒否された東京都東大和市の女児と両親が市を提訴し、東京地裁が入所を認める判決を出し、確定している。【中川聡子、坂根真理】

<医ケア児を受け入れないと回答した自治体>
富山市、甲府市、静岡市、徳島市、東京都文京区、墨田区、品川区、大田区、渋谷区、中野区、豊島区、板橋区
医ケア児の保育を研究する空田朋子・山口県立大助教(看護学)の話 法改正で自治体は医ケア児支援に努めるよう明記されており、自治体は早急に支援体制を整えるべきだ。医ケアを理由に、保育園という発達の場の選択肢を奪われることがあってはならず、行政の責任で保障されなくてはならない。国が主導して拠点園の整備などのモデル事業を進めるべきだ。

【ことば】医療的ケア
医師にしか認められていない医療行為以外に、在宅で家族らが日常的に担っている医療的な介助行為。口や喉からたんを吸い出す「たん吸引」▽鼻の管から栄養剤を流し入れる「経管栄養注入」▽尿道口からカテーテルを通して尿を排出させる「導尿」など。かつては医師、看護師、保護者しかできなかったが、介護保険法の改正で、2012年4月からは一定の研修を受けて認定されたヘルパーや保育士も可能となっている。

児童虐待の一時保護継続、家裁審査で調整 厚労省案

朝日新聞デジタル 2016年12月13日

虐待を受けた子どもが適切に一時保護されるように、厚生労働省は裁判所を関与させる新しいルールの概要を固めた。保護者の同意がないまま2カ月を超えて保護しているケースを対象に、家庭裁判所が保護を継続するか審査する方向で調整。早ければ来年の通常国会に児童福祉法の改正案などを提出する。
一時保護は、虐待を受けた子どもの安全確保などの目的で親子を引き離す仕組み。児童福祉法で児童相談所の所長が判断し、原則2カ月までと定めている。
児相には子どもが再び家庭で暮らせるよう指導する役割もある。保護者との関係悪化を懸念して保護をためらうことを避けるため、厚労省の有識者検討会が裁判所に関与させる新ルールづくりを検討してきた。ただ、すべての判断に裁判所が関与すれば迅速に保護できなくなる恐れもあることから、まずは対象を絞って児相や家裁にかかる負担などを見極めることにした。
厚労省の調査では推計で年間約3600件が2カ月を超え、うち約470件で保護者の同意がない。このケースを新ルールの対象とする方向で、家裁が認めなければ、子どもは親元に帰すか児童養護施設や里親に委託をすることになる。(伊藤舞虹)

漫画家の古泉智浩さんに聞く、里親になったきっかけ

R25 2016年12月11日

様々な事情により、家庭での養育が困難で、社会的な養護を必要とする児童は現在、約4万6000人いるという(厚生労働省「社会的養護の課題と将来像の実現に向けて」)。
そんななか、同調査によると、ここ十数年で里親等への児童委託数が3倍近くに増えているというデータもある。
実際に里親になった人は、どういう過程でその決断をするのだろうか。里親体験を描いた『うちの子になりなよ』(イースト・プレス)の著者で漫画家の古泉智浩さんに聞いた。

里親に、なぜなろうと思ったのか
「里親になろうと思ったきっかけは、不妊治療がうまくいかなかったことでした。当時、すでに10年くらい交際していた現在の妻と『できちゃった婚』をしようと、避妊せず子作りした結果、一度はすぐに妊娠。しかし、流産してしまい…。彼女が子作りを本気で希望したことから、不妊治療を受けるために入籍しました」(古泉さん 以下同)
しかし、「タイミング法」や「人工授精」を何度も試し、さらに「体外受精」と「顕微授精」もあわせて10回行ったものの、結果は得られずじまい。結局、6年間という月日と600万円もの費用を失ったそう。古泉さんは不妊治療への思いを次のように話す。
「女性の心身への負担は非常に大きいものですし、ただ徒労感ばかりがあり、何も残らないむなしいものでした。不妊治療をするなら、1年とか100万円など、期限や金額の枠を決めたほうが良いと思います」

子どもが欲しくて欲しくてたどり着いた「里親」の道
そこで、古泉さんが奥さんに相談したのが「里子を預かる」ということだった。実は古泉さんには、元婚約者との間に、事情があって3回しか会えていない娘がいるそう。
「娘に会ってから、あまりの愛おしさに、子どもが欲しくて欲しくてたまらなくなりました。不妊治療の終盤には、もはや自分の子じゃなくても良いと、切羽詰まった思いになり、テレビで里親や養子縁組特集があれば必ず見るようになっていました」
さらに、「里子」を考えたきっかけには、元交際相手の連れ子をひとりで育てているシングルファーザーの友人に会い、その温かくステキな親子関係を見たこともあったそう。
とはいえ、「里子を預かる」という提案に対し、実子に対するこだわりがる奥さんは当初、あまり乗り気でなかったそう。
「しかし、不妊治療は妻の意見をほぼすべて受け入れてきたので、今度は僕の希望を聞いてほしいと頼んだのです」
長い不妊治療の末に児童相談所に相談に行き、夫婦での里親研修を経て、やってきた「里子」の赤ちゃんとの暮らしについて、古泉さんはこう語る。
「僕はそれなりに恵まれた生活をしていたと思うのですが、それでも心から幸せだと思ったことはこれまでなかったんです。もともと子ども好きだったわけでもないし。でも、赤ちゃんが来てからは、毎日が幸せで幸せで。表すなら、銀行口座に自動的に毎日100万円振り込まれているような気持ちです(笑)」
実子でないことも忘れるほど愛おしいという「里子」。古泉さん夫婦のように、子どもが欲しいと考えている人、不妊治療に疲れてしまった人にとって「里親」という制度は、ひとつの大きな希望になるかもしれない。
(田幸和歌子+ノオト)